ディープな大井川(4) ミステリートンネルを一人探索

 
 
人の手を離れた廃線は、時の経過とともに記憶も薄れ、残された鉄道遺構はゆっくりと自然の中に還っていく。 そのわびさび感が廃線の魅力の一つだ。

 
一方、歴史を風化させず廃線に新たな手を入れることで、過去と未来をつなぐ”場”になり得ることもある。
以前紹介した井川の廃線小路もそうした"場"の一つだ。
そして実はもう一つ、大井川流域には、別の廃線を活用した「ミステリートンネル」という"場"もあるらしい。
 

 
 
そもそも、別の廃線とは何か。
井川線には井川駅の先にある廃線小路とは別に、時代を異にするもう一つの廃線がある。
 
前回の「日本一の急勾配 アプト式で行く」の記事内でもふれたが、長島ダムの建設に伴い 現在のアプトいちしろ駅から接阻峡(せっそきょう)温泉駅までの区間が新線に付け替えられた。
そして、この区間の旧線が廃線となった。
 

1990年10月に新線が開通時し、旧線の3つの駅は廃止。川根唐沢駅と犬間駅はダムの底に沈んだ。
同時に新設されたのは、長島ダム駅、ひらんだ駅、奥大井湖上駅の3つである。

旧線 新線
川根市代駅アプトいちしろ駅(名称変更)
大加島仮乗降場(廃止)
長島ダム駅(新設)
川根唐沢駅(廃駅)
ひらんだ駅(新設)
犬間駅(廃駅)
奥大井湖上駅(新設)
川根長島駅接阻峡温泉駅(名称変更)

 

  

実際に地図で新線・旧線の位置関係をみていただくと、よりイメージがつかみやすいだろう。
旧駅の位置は座標で指定したのでほぼ間違いないが、旧線に関しては、おおよその位置と考えていただきたい。
 

赤い点線が旧線

 
大井川沿いを走る旧線の多くは簡単には人が近づけないような場所にあり、遠くから眺めるしかない。
が、上の地図を見ていただくとわかるように、アプトいちしろ駅から大加島仮乗降場までの旧線は大井川から離れたトンネルの中を走行していた。
 
このトンネルに少しずつ手を加えて整備し、新たな観光スポットとしたのが「ミステリートンネル」である。
何がミステリーなのかよくわからないが、井川線を旅するなら、このミステリートンネルを探検しないわけにはいかない・・という気分になってこないだろうか?

 

アプトいちしろ駅からミステリートンネルへ

 
ミステリートンネルを歩くハイキングルートは、長島ダム駅・アプトいちしろ駅、どちらからでもスタート可能だ。実際に歩いた方のブログなどを拝見すると、長島ダム駅から下っていくルートを選ぶ方が多い。
私は、上り坂になるのは承知で、あえてアプトいちしろ駅からスタートした。
なんとなく、自分の足で上っていく感覚を味わいたいと思ったからなのかもしれない。

ただ、事前にかなり調べたのだが、アプトいちしろ駅から具体的にどうやってミステリートンネルの入り口にたどりつくのか今一つわからなかった。
一抹の不安もあったが、まあ行けばなんとかなる・・はずだ。

とりあえずは、アプトいちしろ駅で下車をする。
さて、どちらの方向に行くべきか・・と周囲を見渡すと、ホームに地元の女性らしき方がいる。手作りの「アプト餅」を販売していたこの方にミステリートンネルの行き方を訪ねた。

 

できたてホカホカのあぷと餅。柏餅のような草餅のような。

 
 
ホームをまっすぐ歩いていけば、すぐ道がわかる・・と言いながら、急に顔がほころぶ地元女性。
「ほら、そのトンネルを作った人が、そこにいるわよ」と笑う。

振り返ってみると、なんとすぐ後ろに、ミステリートンネルを作ったご本人が立っていた。
そんな偶然ってある?!

 

地元振興のために尽力されている海野さん

 
この日は、地元のPRビデオを作るためにアプトいちしろ駅まで出向いたとのこと。ミステリートンネルは6~7年前から、こつこつと手直しをして作ってきたそうだ。
これから車で長島ダム駅に向かわれるとのことで、幸運な出会いに感激しつつお別れをして、私はミステリートンネルの入り口に向かう。

教えてもらった通り、千頭駅方向にホームをまっすぐ戻り、左手に曲がって線路を超える。
目の前に見えるのが、アプトいちしろ駅舎である。
アプトいちしろ駅を通り抜けたら、そのまま右方向へ。

 
 
小さな駅舎を抜けて、振り返ったところ。

 
 
 
教えていただいたとおり、柵にそって歩いていく。右手奥に、千頭方向に続くトンネルが見える。
正面の道は行き止まりのように見えるが、ヘアピンカーブの道が続いているので、ぐるっと左方向に回り込む。
 

 

千頭駅から数えて15番目のトンネル。旧線の線路はないが、ここが新線と旧線の分岐点だ

 
 
ヘアピンカーブをくるりと回り、再び井川方向への道を進む。
下の写真のあたりが、以前、川根市代駅があった場所だ。名称変更だけじゃなく、駅の場所も少し移転している。
 

黄色い矢印の下にある看板は、川根市代駅の駅名標。 つまりここに川根市代駅のホームがあった

 
 
目の前にある、ぽっかりと口をあけたミステリートンネル。
「ようこそいらっしゃいました」と言っているようだ。

このミステリートンネル、長さが375mもある。どのくらいの長さか、ピンとこないかもしれない。要は、懐中電灯などの点灯器具がなければ、とてもじゃないけど通り抜けられない暗闇が続く距離なのだ。
探索には、必ず懐中電灯を持っていこう。スマホのライトでは力不足。
(長島ダムなど懐中電灯を貸し出す場所もあるようだけど、自分で持っていったほうが間違いない)
 
準備はできている。あとは勇気を出して中に入るだけ。
だって、こんな真っ暗なトンネル、1人で歩くんだから、やっぱり少しは怖気づくよね。

 
トンネルに足を踏み入れてすぐ、ライトを照らすと、レールのようなものが見える。
ようなもの・・じゃなくて、間違いなくレールだ。
ここを列車が通っていたのだなと改めて実感する。トンネル内部を見渡すと、信越本線の廃線トンネルを歩いたときと比べても、やはり狭く感じる。 このトンネルを懸命に通り抜ける小ぶりな車両が軋み音が聞こえてくるようだ。

ライトを前方に照らしながら、黙々と前に進む。
自分の足音だけが暗いトンネルの中に響く。

歩く。ひたすら歩いて、出口を目指した。

すると突然・・・。

あぁこれが、ミステリートンネルたる所以かと思う出来事が起こる。
ミステリートンネルに敬意を表して、ここでは詳細を語らない。
でも、どうしても知りたいという方は、下のボタンをどうぞ。

 

  
ちなみに、ミステリートンネルを作った海野さんにお話を伺ったところ、見学に来た子供達には大好評だが、保育園児ぐらいの子たちはみんな泣いてしまうらしい。笑

 
 
さて、なんとか出口が見えてきた。
トンネルの中から臨む外の景色は、本当にいつみても鮮やかだ。

トンネルの先には何が待っているのだろうか。
 

 
 
次に続く、、
 

 

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