何度でも願う全線開通 小湊鉄道

 
 
 
 

2020年10月5日に発生した台風14号は、10日から11日にかけて関東地方に最接近し一部の地域では大荒れの天気となった。

千葉県を南北に走る小湊鉄道線も、14号の影響により土砂流出などが発生。線路が浮き上がった状態となり、養老渓谷と上総中野(かずさなかの)の両駅間の運休が続いている(2020年10月17日現在)。

小湊鉄道の運休はこれまでも幾度となくあった。記憶に新しいところでは昨年2019年の相次ぐ台風襲来により、多大な被害を受けている。不通になった区間は順次再開されていったが、最後まで不通だった養老渓谷と上総中野間が復旧し全線開通となったのは2020年1月27日のことだ。

今年の3月、全線開通を祝って上総中野まで短い旅をした。車窓からの眺めを思い返しつつ、小湊鉄道へエールを送るべく、旅の記録を紹介する。


 

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出発は五井駅

五井駅の小湊鉄道
五井駅の3番線ホームにとまる小湊鉄道の車両。左側に見えるのはJR五井駅のホーム

 
 

まずはJR内房線の五井(ごい)駅まで行く。ここが、小湊鉄道線の起点となる。

自宅から始発電車に乗り、JR五井駅に到着したのは午前7時1分。養老渓谷行きの列車が出るまで10分しかない。焦りながら小湊鉄道のホームを目指して小走りで渡り廊下を歩く。乗換だけなら10分もあれば十分だが、小湊鉄道全線乗り降り自由の1日フリー乗車券を買わなければならないので、時間に余裕はない。

渡り廊下からホームに降りようとしたとき、ちょうど上総牛久(かずさうしく)発の上り列車が到着し、わらわらと乗客が降りてきた。意外と人がいるんだな・・と思ったものの、通学通勤の時間帯なのだから当然だ。

 

小湊鉄道線は五井から上総中野までの39.1km全18駅の路線で、その大半が千葉県市原市にある。房総半島の中央部を南北に走り、終点の上総中野で、いすみ鉄道と接続する。昨年の台風被害で最後まで復旧できなかったのが、終点近くの養老渓谷と上総中野の区間である。

上総中野駅だけが、千葉県夷隅郡大多喜町にある ☆クリックで拡大  ButuCC, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

 
 
 

五井には、懐かしいSLや車齢100年を超える車両が展示されている機関区がある。残念ながら今回は時間の都合で立ち寄りはできなかった。

(※2020年10月17日現在 コロナの影響でSL見学は中止となっています)

 
 
 

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まずは養老渓谷へGO

小湊鉄道の海士有木(あまありき)駅
海士(あま)と有木(ありき)2つの地区をつなげて駅名になったという海士有木駅

 
 

五井を出発するすべての列車が終点の上総中野に行くわけではない。終点まで行くのは1/3ぐらいで、残りは上総牛久か養老渓谷どまりとなる。私が乗った列車も養老渓谷どまりなので、いったんそこで下車をして次の上総中野行きを養老渓谷で待つことにする。

列車は住宅街と畑の中をのんびりと進んでいく。駅名標や駅舎など、歴史を感じるものが多く、車窓からだけでも十分楽しめる。
 

上総三又(かずさみつまた)駅。木造の渋いホームが奥に見える

 

上総山田駅。お父さん方、お勤めゴクロウサマデス

 
 

列車は高滝に到着。この辺りまで来ると車窓からの眺めも、旅をしているんだなという印象の景色に変わってくる。朝の下り列車は出発時から乗客は少なかったが、高滝ではご覧の通りがらがらの状態。
 

小湊鉄道の車内
近くには高滝ダムがある

 
 

高滝の次は里見だ。この駅は有人→無人→有人となったり昔専用線が通っていたりなど、いろいろなエピソードがあるのだが、それはまた別の記事で紹介するとして、今は先を急ぐ。
 

小湊鉄道の里見駅、レトロな駅名標
味のある駅名標。メンテナンスは大変だと思うが、やはり木造の駅名標はいい

 

小湊鉄道の閉塞方式
小湊鉄道線は3つの閉塞方式(列車の衝突を防ぐ安全システム)を使用しているが、里見はその切り替え駅の1つ

 

小湊鉄道の里見駅の使われなくなった旧ホーム
進行方向(上総中野)に向かって右手にはかつて使用していた旧ホームがある

 
 

飯給(いたぶ)は、フォトジェニックな写真が撮れることで昨今人気の駅だ。訪問した日はまだ桜は1分~5分咲きだったが、満開になるとそれはそれは美しい風景を堪能できる。

小湊鉄道の飯給(いたぶ)駅と菜の花
桜と菜の花のコラボと、駅前にある水田が水鏡のように風景を映すことが見どころの飯給駅

 

小湊鉄道の飯給(いたぶ)駅の菜の花と3分咲きの桜
例年よりはだいぶ数が少ないが、カメラマンもちらほら見かけた

 
 
 

 

続いて列車は月崎に到着。ここにも古いホームの跡がみえる。

小湊鉄道の月崎駅の使われなくなった旧ホームにたつ人形
旧ホームで手を振る人影が!と思ったら人形だった。古い線路の自然に還る雰囲気がとてもいい

 
 
 

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隧道を抜けて菜の花畑へ

小湊鉄道の隧道(トンネル)
月崎を出た列車は短い隧道をくぐり抜ける

 
 

市原市によると、房総半島の内陸部を走る列車の中で隧道があるのは小湊鉄道だけとのこと。5つある隧道のうち全長100mを超える3つの古い隧道が国登録有形文化財に指定されている。
 

上総大久保駅を出発すると、列車からの車窓は山間の景色に変わってくる。とはいえ、それほど高い山のない千葉県なので、どこかのどかな雰囲気を漂わせている。
 

小湊鉄道、先頭車両からの眺め
列車の先頭から進行方向を臨む。春の空気に視界がぼんやりと霞みがかる

 

小湊鉄道の鉄橋
本当に渡って大丈夫なのか・・という雰囲気を醸し出す短い橋

 
 

まもなく養老渓谷という直前に、視界が開け、鮮やかな黄金色の絨毯が目に入る。この景色を見るだけでも、この列車に乗る価値がある。
 

小湊鉄道と菜の花の石神地区
石神地区、圧巻の菜の花畑。養老渓谷駅から徒歩で行くことができる ☆クリックで拡大

 
 
 

列車は養老渓谷に到着。次の上総中野まで行く列車が来るまでは90分ほどあるので、途中下車して周囲の散策も可能。この日は、さきほど車窓から見た石神の菜の花畑まで往復した。
 

小湊鉄道の養老渓谷駅のレトロな駅名標
自然にとけこむ駅名標

 

小湊鉄道の養老渓谷駅に停車するキハ201
養老渓谷駅に到着した列車。この後、五井まで折り返し運転となる

 
 
 

やがて、上総中野行きの列車が入線してくる。
 

小湊鉄道の養老渓谷駅に入線するキハ201
列車のヘッドライトは、いつみても心が和む

 
 

列車に乗り込み、次の終点、上総中野に向かう。実際に乗車して車窓を眺めていると、開通してから2か月しかたっていないのだなということをひしひしと感じる。山間の樹々の中をくぐり抜けるように走る列車の周囲は、なんとかがんばって列車が通れるぐらいに修復しました・・といった場所があちこちに見えた。線路沿いには、なんらかの作業をしている作業員の方の姿も見かけたので、まだまだ作業は続くのだなといった印象だ。

そんな現場作業の多大な労力を経て開通した線路を通り、列車は終点の上総中野に到着した。

 
 

上総中野に到着

小湊鉄道の上総中野駅に停車するキハ201
列車は五井に向けて折り返し運転となる

 
 

小湊鉄道線の終点、上総中野駅。空の青さが、全線開通を祝ってくれているかのようだ。
 

小湊鉄道の上総中野駅に停車するキハ201と駅舎
山小屋風の駅舎。古そうにみえるが、1989年(平成元年)建て直されたものでまだ30年程しかたっていない

 
 
 

終点駅のお約束、車止めがみえる。線路が途切れる様子は、いつみても鼻の奥につんとくるものがある。
 

小湊鉄道の上総中野駅の車止め
右側に見える線路は、いすみ鉄道もの

 
 
 

上総中野駅は、いすみ鉄道と小湊鉄道で共有している。ホームは別々で少しずれた場所に設置されている。
 

小湊鉄道と接続する上総中野駅に停車するいすみ鉄道の列車
いすみ鉄道の車両は鮮やかな菜の花色

 
 
 

名残り惜しくはあるが、さきほど乗ってきた列車で引き返す。

小湊鉄道の車内

小湊鉄道の板谷隧道(トンネル)
上総中野と養老渓谷の間にある全長140.82mの板谷隧道。昭和初期の竣工で隧道の入り口は馬蹄形をしている

 
 

養老渓谷駅を過ぎると、行きにも通った石神地区の菜の花畑を再び通過する。お昼近くになって、観光客も少し増えたようだ。

菜の花の石神地区を走る小湊鉄道
先頭車両から撮影。小さな子供たちの記憶にこの菜の花と列車が残ってくれるだろうか  ☆クリックで拡大

 
 
上総大久保駅が近づいてきた。今回は途中下車できなかったが、この駅もなかなかいい。

菜の花と桜の小湊鉄道の上総大久保駅に近づく列車
養老渓谷と月崎の間にある上総大久保駅   ☆クリックで拡大

 
 
 

このあとも、途中下車して沿線を歩いたりなど旅は続くのだが、その話はまた別の機会に。

2020年台風14号の土砂流出の被害がどの程度で復旧するかわからないが、現場で作業してくださっている方々に感謝の念を送りつつ、また来年の春にはこの風景がみられることを祈りたい。

  

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