難易度ちょうどよし、形よし、景色よしの小佐木島灯台、もしかしてベストワン? 小佐木島自体も魅力的だ

 

ナギヒコさんから寄稿していただいた記事です

 

到達:2023年11月
難易度:■■■□(中級)

 

「こんな灯台に来たかった」と思える灯台だった。

 そもそも最初に行った立石岬灯台(たていしみさきとうだい、福井県敦賀市)がいろんな点ですばらしくて、なかなかそれを超える灯台がなかったけど、ここはもしかして“ベストワン”にしてもいいかも…。

参考記事:つい見に行ってしまった立石岬灯台の「かっこよさ」

 というのが、小佐木島灯台(こさぎじまとうだい、広島県三原市)だ。いろいろ書きたいことがあってちょっと長くなるけど、おつきあいください。

 

 そもそも小佐木島に行くところからしてハードルが高い。

 山陽新幹線の三原駅の近くにある(歩いて10分ほど)三原港からは、佐木島、因島、生口島、大久野島など、近くの島に向かう航路がいくつかあり、生口島に向かう船のうち何便かが小佐木島にも寄港する。ただ、ちょうどいい時間を島で過ごす(やや時間を持て余すが2時間20分)としたら、三原港から往復する船便は一択だ。

 この地図に矢印のある灯台は、別の記事で紹介する(記事末にリンク)。

(国土地理院)

 三原港から小佐木島までは船で10分ちょっとと、かなり近い。途中で灯台も小さく見える(写真中央のやや右寄り)。

 

 小佐木島の現在の人口は4人だという。ただ、このときは3人が降りたし、帰りは5~6人が乗った。本州(三原)から船で来て、廃棄物収集や畑仕事などをしているようだ。また、防波堤にはすでに釣り人がいた。最近では桜の植樹や古民家再生などが行われているほか、2023年には貸切/宿泊のサウナもできている。このままだれもいない島になってしまうわけではなさそうだ。

 港には、船の待合所とトイレもある。というか、これ以外何もない。

 港のすぐそばには、照射灯(小佐木島土岩照射灯)があり、階段を上ればそばまで行ける。

 照射灯が照らしているのは、おそらくこの写真の左端にある杭だろう。対岸(南)の佐木島との間はかなり強い潮流がありそうに見える。

 

 小佐木島をぐるりと一周する道路があり、灯台はちょうど港の反対側なので、どっち回りで行っても時間は大差ない。今回は時計回りで島を一周しよう。

 何軒かの家を過ぎると、小さい砂浜がある。やはり相当速い潮の流れがあるようだ。佐木島の向こうに見える島は、高根島(こうねじま)だろうか。瀬戸内海は“多島海”と呼ばれるように、とにかく近くに島がいっぱい見える。

 前述した貸切のサウナがあった。海が真ん前で、気持ちよさそうだ。ここから道は山の中に入っていく(写真右方向)。

 上り坂が続くが、道は舗装されているので歩きやすい。しかし、この道を通るクルマはもうないのではないか。

 道路の最高点らしきところに来た。さらに上っていく階段(右)、文字がかすれて読めない案内板(中央)、海岸方向に下っていく道(左)などがある。以前は人の往来がもっとあったことをうかがわせる。

 この道の先に、なにかあったのか。

 地図で見ると、道は島の南西端まで続いていたようだ。果樹園記号がいくつかあるので、農作業用の道路だったのかもしれない。

(国土地理院)

 

 この先は、道が下りになり、北側の海が見えてきた。白いガードレールがまだきれいだが、いつ作られたのだろうか。

 坂を下りきり、左に入れば砂浜に出る。港からゆっくり歩いて20分ぐらい。

 実はこの場所に、最近(2023年)までいくつかの建物などがあった(上の地図でも確認できる)。これについては、本稿では触れないでおく。

 昭和の中ごろは海水浴客でにぎわっていたそうだが、いまは静かな浜辺が広がるだけだ。いい場所だけど、これから先、ここで泳ぐ人はいないだろうな。

 そして砂浜の左をよく見ると…。

 山に入っていく階段が見える。

 

 これが灯台へ向かう道だ。

「立入禁止、通行止めだって?」と一瞬あせる。どうやら「直進するな、灯台へは折り返せ」ということのようだ。折り返して、写真右上の方に向かう。

 道は割とはっきりついている。春から夏にかけて草が伸びるとどうなるのかはわからないが。

 何気ない山道に見えるかもしれないが、右下は急な崖で、途中で木に引っかからなければそのまま海面まで落ちてしまう。

 右下を振り返れば、さっきいた砂浜がよく見える。

 大きい岩があったりすると、やはり歩くのには多少気を使う。

 

 山を登り始めて10分弱、灯台が見えた! 危なそうな道があまり長く続かなくてよかった。

 塗り直したのは割と最近か、青空を背景とした白い石造りの本体と外壁がまぶしいぐらいだ。

 初点灯は1894(明治27)年7月。この年は、この付近だけでも大下島灯台、中ノ鼻灯台、長太夫礁灯標、百貫島灯台、大浜埼灯台、鮴埼(めばるざき)灯台、高根島灯台、さらに大久野島灯台と、数多くの灯台が作られた、灯台建設ラッシュの年だった。

 その理由については、大浜埼灯台の記事で説明している(記事末にリンク)。

 明治初期のような半円形や円形の付属舎はもうなく、すっきりした形。退息所(灯台職員の宿舎など)があったような敷地もなさそうだ。灯台職員は今来た道を毎日通っていたのか。

 コンパクトな敷地に立つコンパクトな灯台の美しさ。

 

 そしてもう一つ、この灯台の魅力は、ここから見える海の景色だ。瀬戸内海特有の穏やかな海面が広がっている。聞こえるのは、風の音とかすかな波音。だれにもじゃまされない、心地よい時間を味わい、しばらくの間、立ってただ海を眺めていた。

 対岸は三原港付近。左の形のいい山は筆影山だろう(あとで調べた)。島の南側で見たような速い海流ではない。

 しまなみ海道付近は多くの島が連なっているために、島と島、島と本州の間が狭く、どこも航海の難所になっている。その中で、小佐木島と本州の間は比較的潮流が穏やかなので、昔は多くの船がこのルートをとったのだろう。小佐木島灯台のほか、大久野島灯台、高根島灯台、大浜埼灯台という明治中期に作られた灯台は、このルートに沿ったものだ。

 

 よく見れば、灯台より海側の木はかなり伐採されている。ここまで来た人に、ゆっくりと海を眺めてもらおうと、島の関係者が手入れしてくれたのではないか。浜辺からの山道が荒れていないのもそのおかげだと思う。ありがとうございます。

 

 船便数や山道のようすなどから総合すると、小佐木島灯台到達の難易度は中級ぐらいで、立石岬灯台と同レベル。灯台のサイズや形はどちらもいい感じ。敷地が広く退息所があったころをしのぶことができる立石岬灯台に対し、小佐木島灯台は灯台を囲むだけの外壁というコンパクトさがあり、甲乙つけがたい。

 一点、小佐木島灯台が優れているのが、灯台から見える海の景色だ。立石岬灯台は灌木越しにようやく水平線が見える程度だが、ここは海面が眼下に大きく広がっている。

 いままで立石岬灯台が一番だと思っていたが、小佐木島灯台はそれを上回る“ベストワン”のような気がしてきた。

 静かな時間を堪能したので、そろそろ立ち去ることにしよう。島の周回道路に戻ってしばらく歩くと、いままでいた灯台と砂浜がきれいに見える。周回道路を反対回りに来れば、まずこの景色が目に入るわけだ。

 小さい岬を一つ越えると、もう一つ砂浜があった。崩壊しかかっている桟橋の鉄骨があり、海水浴場としてにぎわっていた時代が確かにあったことを物語る。

 島内にはみかんの木が多い。みかんを収穫している女性に話を聞いたところ、先祖からの土地ではあるが、島内に住んではおらず、三原から船で通ってきているそうだ。

「早生はおいしいが、時期が終わってしまったので、酸い(すい)よ」とみかんを1個もらったが、そんなことはなく、おいしかった。

 

 ゆっくり歩き、灯台の場所でものんびり過ごして港に戻って1時間ちょっと。持参したコンビニおにぎりを食ってもまだ時間が余っているので、気になっているところに行ってみることにした。

 港から北側を見ると、道幅のある上り坂が見える。事前に航空写真を見たときは、道の先に、木がない開けた場所があるようだった。なにがあるのか。

 クルマがすれ違えるぐらいの幅がある道は、舗装されていて、側溝まである。

 海側の木は桜だろうか。植えてから何十年か経っているように見える。

 道はここで終わり、その先は雑草の生える平地が広がっていた。

 三原港に帰る船から見たその場所は、明らかに人工的な感じに真っ平らだ。

 三原市が作った(と思われる)小佐木島のパンフレットによると、「昭和40年代、島の活性化のために山を削って産業を興す話を承諾したが、工事の途中で破綻」とある。

 結構な広さがあるので、工場の可能性もあるが、アクセス道路がしゃれた感じになっているところを見ると、ホテルとかのレジャー施設を作ろうとしたのかもしれない。建物ができる前に破綻したことで、廃墟が生まれるのを防げたことは、ある意味ラッキーだったのではないだろうか。

 

 小佐木島は灯台もすばらしいが、島自体も魅力的だ。

 畑仕事をする人や釣り人が船で来たり、サウナや再生古民家ができたりと、人影がまったくなくなっているわけではない。人出が多い観光地や、お膳立てされすぎているリゾートなどにウンザリしている人は、この島に立ち寄るのもいいと思う。

 

 小佐木島灯台のほか、明治27年(1894年)にしまなみ海道付近に集中して建てられた9つの灯台についてはこちら。

 三原近辺のほかの灯台記事はこちら。

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