鋼材でつくられている橋には色々な種類があるが、橋の断面は四角形のものが多い。ところがごくまれに断面が三角形になっているものがある。
例えば下の写真は大夕張ダム建設時にダム湖(シューパロ湖)に架けられた鉄道橋で、三弦橋(正式名称:下夕張森林鉄道夕張岳線「第一号橋梁」)と呼ばれている。
上弦が1本、下弦が2本で構成され、断面が三角形となる「三弦トラス」である。
三弦トラスは、水道管を通す水道橋などで目にすることがあるかもしれないが、人や車両が通る橋となると、それほど数は多くない。
そんな珍しい三弦トラスが、実はかなりメジャーな観光地で目にすることができる。金沢の奥座敷、山中温泉郷を流れる大聖寺川に架かる「あやとりはし」である。
断面が三角形の三弦トラスには違いないのだが、見ての通りの上弦2本下弦1本の逆三角形で、逆三弦トラス構造になっている。
シューパロ湖の三弦橋は列車の走行部分が三角断面の下部にある下路式だったが、あやとりはしは下路でも上路でもない中路式。三角断面の中央を通る歩道廊は、少し細めのワイヤーで吊られた構造になっている。
これだけでも十分おもしろいのだが、さらに俯瞰でこの橋をみると、なんとS字にカーブしていることがわかる。
一般的に、橋には橋の両端を支える橋台(きょうだい)と、橋の途中を支える柱のような橋脚(きょうきゃく)がある。あやとりはしには、この橋脚に相当する支点が4か所ある(上の航空図の赤青黄緑の丸)。
S字形曲線のねじれに対処するため、支点を結ぶ範囲内に橋がおさまるよう、支点が配置されている。(技術的な詳細については記事末の参考資料をご覧ください)
下の写真は右岸上流側から撮影したもので、手前の円筒形のコンクリートが航空写真の赤丸、奥が青丸となる。一般的な橋脚と比べると、随分と脚を広げた状態で橋を支えているように見える。
ちなみに、右岸のすぐ近くにある橋脚風の石積みは、ちょっとした遊び心ということだろうか。(石同士は崩れないように施工されている・・よね)
歩廊部分を下から見上げると、上弦から吊り下げられているのがよくわかる。このため、実際に歩いてみると、吊り橋とおなじようなゆらゆら感がある。
右岸側から橋を渡ってみよう。
この橋の入口正面のショットを見ただけでも、この橋がただものではないことがよくわかる。
右岸と左岸の高低差が約5mある(左岸のほうが高い)ため、雨でも滑りにくい施工がなされている。写真をみても、少し上り傾斜になっているのがわかるだろうか。
左に右にと橋はS字にカーブする。上弦と下弦をつなぐ鋼材の角度が微妙に変化していくのがわかる。
山中温泉は鶴仙渓(かくせんけい)という渓谷に沿うように温泉宿が立ち並ぶ。
あやとりはしの直下は道明ヶ淵と呼ばれる景勝地で、春夏秋冬の美しさを橋上から堪能できる。
左岸側から橋をみる。下の写真、右下にある背の低いコンクリートが航空写真の緑丸だ。
橋が作られたのは1991年(平成3年)。いけばな草月流家元・勅使河原宏氏により、鶴仙渓にふさわしい橋としてデザインされ、色は赤味がかった紫色のワインローズが採用された。
最大支間長は66.9m。渓谷から見上げたあやとりはしは、この地の龍伝説を彷彿とさせる空を翔る龍の姿のようでもある。
最終的に逆三弦トラスを採用するに絶対的な理由はなかったように思うが、実際にこうして完成した橋を眺め渡ってみると、これは必然だったのかもしれないな・・などと感じてしまう自分がいる。
最後に、左岸側からあやとりはしを3倍速で渡る動画をご覧いただきたい。下り勾配なので、実際に早足で歩いていると徐々に加速して、逆三弦トラスの中に吸い込まれていくような、そんな不思議な感覚になってくる。
※参考資料