撤去が進む旧吾妻線 消えゆく廃線跡を追う

丸沼の話はいったん小休止。先に先日訪れた東吾妻町の話をしたいと思う。

今年は、紅葉の時期が来たら吾妻渓谷に行ってみたいと思っていた。
電車と徒歩でいける日帰り可能圏ということもあるが、試験稼働中の八ッ場(やんば)ダムを実際にみてみたいと思ったことも大きい。
そしてダム工事に伴うJR吾妻線一部区間の付け替え工事の実態も気になる。
廃止になった区間の吾妻線は実際に今、どうなっているのだろうか。

そうは言っても、紅葉とダムと廃線、1日ですべてみられるわけもない。
優先順位をつけて、計画的に訪ね歩く必要がある。
11月初旬の紅葉時期に行くわけだから、第一優先は吾妻渓谷だ。
そして先だっての台風で満水近くまで貯水量が増えた八ッ場ダムと、その周辺の様子も確認したい。
吾妻線の廃線跡をすべてたどるのは時間的に無理なので、旧線と新線が分岐したあたりのみを探索することに決めた。



まず電車でJR吾妻線の岩島駅まで行く。そこからは徒歩だ。
新線と旧線の分岐点を確認した後、吾妻渓谷に行く。その後、岩島駅に戻る(戻る理由は後述)。
吾妻渓谷の山の中に、八ッ場ダムを下流側から確認できる見晴台(下図⑤)という場所がある。
ここにも行きたいけれど、徒歩で往復の時間を考えると厳しいかもしれない。
遅くとも昼ごろには、岩島駅から下り電車に乗って移転した新しい川原湯温泉駅に行く。
そこから八ッ場大橋まで歩き、八ッ場ダムと貯水状況を確認するというざっくりとしたスケジュールをたてた。
行ったこともない場所で、はたして予定通りにいくだろうか。

吾妻渓谷全体図

高崎7時26分発「長野原草津口」行き

前回の丸沼への旅では、JR八高線に不通区間があることを知らず、痛い目をみた。
11月初旬時点でも、高崎まで八高線は動いていないので、素直に大宮から高崎まで新幹線を利用することにした。
高崎を7時26分に出発する電車に乗れば、岩島駅には8時半過ぎに到着できる。
自宅から始発近い電車に乗っての移動は大変ではあるが、現地の最寄り駅に8時半に降り立てるのはうれしい。
日帰り旅行の可能性がとても広がる気がする。

吾妻線は4両編成 八高線はこのホームの先(上り方向)にある

吾妻線は、渋川駅(群馬県渋川市)から大前駅(群馬県嬬恋村)までの55.3kmの鉄道路線だが、高崎から上越線経由で、直通運転の電車が何本か運行されている。
なお台風19号により嬬恋村は大きな被害を受け、吾妻線にも不通区間がある。
現在運行されているのは、渋川駅から 長野原草津口駅までだ(2019年11月9日現在)。

高崎から信越本線は西へ、北上した上越線と両毛線は新前橋から北と東へ別れる。吾妻線は渋川から西へ分岐

高崎から信越本線は西へ、北上した上越線と両毛線は新前橋から北と東へ別れる。吾妻線は渋川から西へ分岐。
8時36分に岩島駅に到着。
紅葉の時期なので電車も混んでいるかと思っていたが車両に10人も乗っておらず拍子抜け。
岩島駅で降りたのも私を含めて3人だった。みんなもっと後の電車で来るのか、そもそも車で来る人のほうが圧倒的に多いのだろうか。
ホームはそれなりだが、駅舎は比較的新しい。無人駅だとは思わなかった。

乗車券は出口左側に側面が写っている銀色のボックスに入れる

外から岩島駅をみる。驚くほど奥行きのない駅で、右側にあるのが小さな待合室。2階らしきところへはどうやっていくのだろう

この日はお天気に恵まれた。駅をでると、青空を背に紅白の鉄塔がすっくと立っている。
暑くも寒くもなく、あちこち歩き回るにはとてもいい陽気である。

旧吾妻線の出発点は何処に

八ッ場ダム建設のため、吾妻線の一部が付け替えられ2014年10月に新線が開通した。
付け替えられたのは「岩島駅ー川原湯温泉駅ー長野原草津口駅」の区間。
川原湯温泉駅はダムの底に沈むため、南西に離れた場所に新しく駅舎が建てられた。
この区間の旧線は旧国道145号と同じく、吾妻川に沿うように敷設されていたが、新線は旧線よりもずっと手前で大きく左にカーブして走行するルートで作られている。

新線と旧線の分岐点付近をGoogleマップの航空写真で確認してみると、分岐した直後の線路跡らしきものが写りこんでいる。
ちょうど「吾妻渓谷入口」交差点近くなので、目印としてはわかりやすいはずだ。
岩島駅を出て、目の前にある国道145号線をてくてくと歩いていくことにした。

吾妻渓谷入口 航空写真

ふと右をみると、短い鉄橋がみえる。鉄橋は赤もいいが、こんな周囲に溶け込むミルキーグリーンもなかなかである。
一瞬、旧線の鉄橋か!とテンションがあがったが、まだ分岐前なのでこれは現在も使われている現役の鉄橋である。落ち着け>自分。

けっこう歩いたなと感じる頃、ようやく松谷交差点に到着(「吾妻渓谷入口 衛星写真」の①付近)。
目の前には堂々たる風格の第二吾妻川橋梁がみえる。

大きく弧を描き新線は旧線を離れていく。ここが分岐点だ

「吾妻渓谷入口 衛星写真」の②付近 を探索してみたが、造成工事が行われており、地図にあるような線路はみあたらない。
いやそもそも盛り土されていたり、様子がかわっていて自分がどこにいるのかよくわからなくなる。

「吾妻渓谷入口 衛星写真」の②付近 から 第二吾妻川橋梁 方向をみる

どうやら訪ねてくるのが遅かったようだ。
新線と旧線の分岐となる場所にあった線路はすでに撤去されてしまったと思われる。
なんたって土が盛られちゃってるしね。
仕方ないので 「吾妻渓谷入口 衛星写真」の③付近まで歩き撮影したのが下の写真だ。

この写真では小さすぎてよくわからない

肉眼では何もわからなかったのだが、帰宅して写真編集を行っていたところ、気になるものが写っていた。
それが下のオレンジの枠の中である。

拡大してみた。
オレンジの丸枠の中をよくみていただきたい。
こげ茶のガードレールの切れ目から、斜めに走る線路がみえる!!

実際にこの場所にいるときは、この線路は見えていない。
旧線はすっかり撤去されてしまったのだと、この時点の私は意気消沈していたのである。

「吾妻渓谷入口 衛星写真」の③付近

分岐点の廃線跡がみつけられずテンション下がった状態の私は、とりあえず「吾妻渓谷入口」交差点に戻り、
旧国道145号線を歩き、吾妻渓谷に向かうことにした。
ちなみに、八ッ場ダム建設により鉄道だけでなく道路の付け替えも行われている。
吾妻川に沿うように走っていた旧国道145線にかわり、
北側に大きく迂回するルートで新しい国道145線(八ッ場バイパス)が作られた(2011年12月全線開通)。

旧国道145線を歩きながら、本来右手側に並走していたはずの線路跡がないか、ちらちらと右側をみながら歩く。
「もしや」と野性の勘が働き小道に入り込んでみると、ありました。ありましたよ線路が!

ここから先の撤去はまだこれからのようだった。

吾妻渓谷入口 衛星写真 ④付近  旧川原湯温泉駅方向に向かう旧吾妻線廃線跡

旧国道145号に戻り、しばらく進む。再び右側方向をみると、旧線の踏切跡が目に入る。
廃線になってからまだ5年。いまにも列車が通過しそうな雰囲気だ。

「吾妻渓谷入口 衛星写真」の⑤付近

さらに歩いていくと、雁ヶ沢(がんがさわ)の交差点にでる。
交差点を左折してふれあい大橋を渡る。( 図1 吾妻渓谷全体図 ①付近)
ふれあい大橋からは、吾妻川の流れが一望できる。
きっと水量は多い方なのだろう、濁りのある水が吾妻渓谷の間を音を立てて流れていく。

ふれあい大橋より下流方向をみる

こちらは上流方向。川幅が狭くなっていく

ふれあい大橋を渡ると、左手には温浴施設の「天狗の湯」とちょっとした道の駅のようなものがある。
車で訪れる方にとっては、ここが1つのランドマークになるのだろう。

さてここからは、しばし廃線を離れて、吾妻渓谷にフォーカスして話を進めていく。

天然の要害、秋深まりゆく吾妻峡①」へ続く

これまでの旅
スポンサーリンク

Twitterでフォローしよう

おすすめの記事