秋田のひなびた温泉宿に泊まった。
静かな山間の旅館は、歴史をにじませる風格を漂わせつつも、訪れるものを丸ごと受け入れるような極上のサービスを提供してくれる。
食事もまたしかり。
舌だけでなく見た目にも繊細なコース料理が、ちょうどよいタイミングで個室の食事処に運ばれてくる。
そして、お品書きの最後には「きりたんぽ鍋」(曲げわっぱの器で)とある。
鍋が曲げわっぱ?と、想像がつかなかったのだが、実際に運ばれてきた料理をみれば参りましたの完成度。
そして朝食。
実は私、夜の豪華な食事より朝食のほうが楽しみだったりするのだが、この旅館の朝食はすごかった。下の写真は朝食の一部だけれど、少量ずつとはいえ何品あったか数えきれない。
朝食をサーブされる前に、白米がいいかお粥がいいかと尋ねられたので、お粥を選んだ。すると、お粥に鶏肉が入っている。中華粥ならともかく、朝のお粥に鶏肉って珍しいなとそのときふと思う。
ぼんくらな私は、この段階でもまだ気が付いていない。ここがどこかってことをだ。
秋田といえば比内地鶏だよ
朝食を終えて少し外を歩いてみることにした。
宿の玄関をでると、美しい茶色の鶏が、エサらしきものを食べている。
最初は2羽だったのに、すぐにもう1羽やってきた。動きが早い早い。
ぼーっとしていると、次々と鶏が集まってくる。どんだけいるんだ?!というか、ここ格式ある旅館の玄関の前だけど、のどかすぎる 笑
こちらは動画。宿泊客の親子がエサをあげていて、右に左に元気よく鶏たちが動き回る。
秋田といえば、比内地鶏だ。「薩摩地鶏」「名古屋コーチン」と並ぶ日本三大地鶏である。目の前で見慣れぬ鶏が闊歩している姿を見るまで、それに気が付かないとは、まったく我ながらとんまにもほどがある。
旅館の方に伺ったところ、全部で12羽いるとのこと。しかも全員、女子(雌鶏)だという。
そこで、ちょっと違和感を感じる。女子なの?本当に?!
雌鶏だって凛々しい
違和感を感じたのは、目の前の比内地鶏が立派なトサカがあったからだ。
鶏に関しては全然詳しくないけれど、トサカ=雄鶏というイメージがこどもの頃からあった。
すぐさま、スマホで調べてみると、確かに目の前で走り回っているのは比内地鶏の雌である。(いや、旅館の人が間違ったこと言うわけないんだけど、こういうの調べずにはいられない性で)
比ない鶏有限会社さんのサイトにある「比内地鶏とは!」に、「オス鶏とメス鶏の違い」として写真付きで掲載されているので、ぜひご覧いただきたい。
雄鶏はツートンカラーで雌鶏より人目を引くが、トサカはそれほど大きくない。全然知らなかったし、とても興味深い。
また紹介したサイトにも書かれているように、食用として流通している比内地鶏は、圧倒的に雌鶏なのだということも全く知らなかった。
遺伝子とか土壌とか与えるエサとか、比内地鶏たる理由はいくつもあるだろうけれど、それとは別次元で、こうして元気いっぱいに放し飼いで生育されている生き物を見るのはとても気持ちがいい。仮に、後々食べてしまうことになるのだとしても。
ちなみに、2003年(平成15年)12月放送の、当時人気番組だったトリビアの泉で、『比内鶏を食べると逮捕される』というトリビアが紹介された。当時、比内鶏から品種改良された食用の比内地鶏が「比内鶏」と呼ばれることが多く、実際に天然記念物の比内鶏を食べたら処罰の対象になるんだよ・・というトリビアだった。
この番組の影響力は大きく、放送後、「比内鶏」と銘打たれていたものが、次々と「比内地鶏」に訂正されたという話である。
ただし、この話には後日談がある。天然記念物であるからといって、食することがすべて禁止されているわけではなく、一定の条件下では比内鶏を食べたとしても罰せられることはないということのようだ。とはいえ、人気番組の影響は大きい。あの放送をリアルタイムで見ていた人には、天然記念物を口にしたら逮捕される・・という印象がいつまでも残るような気がするな。