わたらせ渓谷鉄道、各駅を順に旅するの第7回。
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ずいぶん長いことライターをやっているのに、タイトルや小見出しといった、キャッチーなコピーを作るのが本当に苦手だ。今回のタイトルも、我ながらひどい(ただ複数の事実をつなげただけ)と思うけれど、このまま書き進めることにする。
桃色に染まっていた神戸(ごうど)駅に比べれば、沢入(そうり)駅は隣の駅とは思えぬほど、ひっそりと鉛色の曇りがかった雰囲気が漂っている。
下りホームには、木造平屋建ての待合所がある。 1927年(昭和2年)に建てられた 切妻造りセメント瓦葺きの屋根は、いい具合に苔むしている。
列車があっという間に発車してしまったので、写真がこの2枚しかないことが悔やまれる。
時間があれば、途中下車してもう少し駅全体の雰囲気を味わいたかった。
実はこの駅、NHK連続テレビ小説「半分、青い。」のロケ地として、知る人ぞ知る駅だという。
主人公の故郷にある「夏虫駅」として、ドラマの中で主人公2人が再会する印象的なシーンに使われた。岐阜県が舞台の番組だが、群馬県のこんな奥まった場所で撮影されていたのだ。
花崗岩が河原を埋める、全国屈指の急カーブ
沢入駅と次の原向(はらむかい)駅の間には、実は見どころがかなりある。
下の地図をご覧いただきたい。沢入駅を出た後、渡良瀬川が逆S字型に蛇行し、それにあわせて線路も大きく曲がっている(下図①)。
少し拡大した航空写真を見ると、線路の急カーブがよくわかる。
この急カーブは別名「坂東カーブ」と名前が付けられており、列車は減速し、この場所についての車内アナウンスが流れる。
この付近の渡良瀬川には白い大きな石が、浅瀬の川を埋め尽くすほどにごろごろと転がっている。白い石は花崗岩(かこうがん)で、「沢入みかげ」とも呼ばれ古くは都電の敷石にも使用されていたと聞く。
この坂東カーブの付近に国道122号線が通っているが、道路からはこの眺めを見ることはできない。河原を歩くか、わたらせ渓谷鉄道の車窓からのみ、この景色を楽しむことができる。
坂東カーブの「坂東」は、大きな御影石の「坂東太郎岩」が近くにあることに由来する。 高さ10m×幅20mの巨大な岩だが、残念なことに車窓からは見ることができない。こちらのサイトに画像が掲載されているが、画像を少し縮小すると岩の前に立っている人が映り、岩自体の大きさに驚く。
「群馬の民話傑作選」という書籍に、「坂東太郎のお伊勢参り」という話が収録されている。この坂東太郎岩が人に姿を変えてお伊勢参りに行くというものだ。
お参りをすませた坂東太郎が財布がないことに気が付き、宿の主人に「 何かの用事で上州にきたら沢入によって下さい、お支払いします」と伝え帰途につく。後に宿屋の主人が上州に用事があり坂東太郎を訪ねていくと、巨岩の上に蓑と菅笠(坂東太郎がお伊勢参りで身に着けていたもの)と宿賃が置いてあったという話である。
まったくの余談になるが、この書籍には「三枚のお札」も収録されていた。以前絵本のレビューを書いたこともある好きな話だが、このときは新潟の民話と認識していた。似たようなお話があちこちにあるということだろう。
次回も引き続き、この区間の見どころを紹介していく。
つづく