とんがり帽子がユニークな茂津多岬灯台、「高さ日本一」奪還への奇策は鴎島灯台がヒントか?

 

ナギヒコさんから寄稿していただいた記事です

到達:2025年10月
難易度:■□□□(入門)

茂津多岬灯台(もったみさきとうだい、北海道島牧村)といえば、なんといってもとんがり帽子の形をした屋根だ。これは「日本一高い灯台」の称号を取り戻すために考えられた奇策であるのだが、このユニークな意匠自体、なかなかいいのではないかと思う。

「灯台クエスト」なんだから、まず灯台へのアクセスの話をしよう。

(国土地理院)

茂津多岬は渡島半島(おしまはんとう)の根元近く、島牧村とせたな町の境界付近にある。険しい崖が続く茂津多岬付近を、国道229号は茂津多トンネルで避けている。

南側のせたな町から向かう場合は、その茂津多トンネルの手前を左折して林道に入る。

次の地図を見るとわかるように、林道はまず等高線が密な箇所を南西方向に斜めにのぼり、北に折り返した後は、比較的平らな場所を通って灯台に向かっている。

(国土地理院)

ちなみに、その分岐点の手前、須築橋を渡る前の左に、教育の森という駐車場があり、ここにトイレがある。

分岐点には「日本一高い 茂津多岬灯台入口 茂津多林道」というデカい看板がある(トンネル出口方向を向いている)。

もう一つの案内板には
民有林林道 茂津多線
管理者 せたな町
幅員 4.0m
延長 2640.0m
とある。

「幅4m」というが、舗装面の幅は2~3mぐらいなので、待避所以外でのすれ違いはちょっと厳しいように思う。途中、200~300mおきにある待避所(「50m先待避所あり」の標識もある)でなら普通乗用車のすれ違いはできる。灯台に行くしかない道に、1日に何台も来ることはないと思うが。

のぼり道はかなり急だ。標識によると傾斜は15%。しかも舗装がかなり荒れている、かなりハードな道だ。

道が南西から北に大きく向きを変えるあたりで急勾配は終わり、路面の舗装もきれいになる。

2~3カ月前、このカーブ付近で子連れのクマが目撃された、という情報が、ヒグマ目撃情報を掲載する「ひぐまっぷ」というサイトに載っていた。まあ車内にいる分にはもしものときもだいじょうぶだろう。

ついに灯台が見えてきた、と思った瞬間、なんと対向車がやってきた。灯台の敷地が近いので、向こうが下がってくれた。ありがたい。

ただ、灯台を見に来た“もの好き”には見えない人だ。灯台か、林道を管理するところの人だったんだろうか。

ともかく、茂津多岬灯台のまん前に到着。国道の分岐から10分ほどだ。「もった」はアイヌ語と思われるが、ちいさい「っ」に漢字の「津」を当てているのは珍しい。ここぐらいのものかもしれない。

塀に囲まれた敷地が結構広い。退息所(官舎)があったのだろう。立派なあずまやが作られている。ここに座って灯台を堪能してほしい、ということか。

塀の外側も広い面積が舗装されている。クルマが5~6台来てもだいじょうぶだ。そんな状況になるとは思えないが。

灯台を正面から見る。とんがり帽子は、ほかでは見られないユニークなものだが、この形も悪くない。灯塔の塗装は新しいが、残念なことにとんがり帽子ははげが目立つ。赤茶色が見えるということは、帽子部分は鉄製なのかな?

海側にある付属舎の屋上には、右の階段から上がることができる。

「日本一高い灯台」からの眺めだ。気持ちいい~。

うしろを振り返ると、灯籠とバルコニー(ここにはのぼれない)が近くに見える。このフレネルレンズ、かなり大きくないか?

このレンズが回転し、灯台が発光するところをとらえた動画が、小樽海上保安部のWebサイトにあった。
https://www.kaiho.mlit.go.jp/01kanku/otaru/shoukai/toudai/move_toudai/39motta_1.mp4
https://www.kaiho.mlit.go.jp/01kanku/otaru/shoukai/toudai/move_toudai/39motta_2.mp4
(撮影者:小樽市の「海と船とスヌーピー」さん)

灯台をひととおり堪能したので、「日本一高い灯台」の話に移ろう。

灯台が「高い」とは、
・灯塔の高さ(地面から塔頂または灯光までの高さ)
・海面からの高さ(標高)
の、主に2種類が考えられる。

灯塔の高さについては、日本で2位または4位(灯台の定義による)である稚内灯台の記事で書いた。

茂津多岬灯台が「日本一高い」というのは、海面からの高さ(標高)の方だ。案内板の説明によれば、
・1937年(昭和12年)に茂津多岬灯台建設。鉄筋コンクリート造で標高日本一
・1951年(昭和26年)に建設された余部埼灯台(あまるべさきとうだい、兵庫県香美町)が、茂津多岬灯台を抜いて標高日本一に
・2001年(平成13年)茂津多岬灯台の屋根をとんがり帽子に交換し、標高日本一に
という経緯だ。

ただし、海面から「どこまでを測るか」は、灯台の立つ地面、灯光、塔頂、という3つが主に考えられる。その3点で2つの灯台を比べると次のようになっている。

※両灯台の案内板に基づく。一部は計算値
※余部埼灯台の数値は1985年(昭和60年)に改築された現在のもの。1951年(昭和26年)の建築時の数値は不明

つまり、茂津多岬灯台はとんがり帽子に替えることで塔頂の高さが日本一になったものの、灯光の高さは余部埼灯台が相変わらず日本一なのだ。

ということで、どちらの灯台も「海面からの高さ日本一」をアピールできる。無難なところに落ち着いたと言えるのでは?

ところで「とんがり帽子の灯台」と言えば、近くにある鴎島灯台(かもめしまとうだい、北海道江差町)もそうだ。

鴎島灯台の初点灯は1889年(明治22年)9月だが、さすがに当初からこの形ではなかっただろう。1951年(昭和26年)の改築時かもしれない。いずれにしても、茂津多岬灯台がとんがり帽子に替えた2001年より前からある可能性が高い。

とするなら、余部埼灯台を上回る高さにしよう、となったときに、近くにある鴎島灯台のとんがり帽子がヒントになったかもしれない。

鴎島灯台がある鴎島(かもめじま)は、現在江差の街中と地続きになっていて、岸壁の突端までクルマで行ける。

上の写真の正面あたりにのぼり口があり、そこから階段をのぼっていく。

のぼりきるとそこは芝生で覆われた平らな場所が広がっていて、正面に鴎島灯台が現れる。

鴎島灯台も付属舎の屋上まで上がれるようになっているのだが、上がらないようにロープが張ってあった。鉄製の階段や柵がさびてしまったためではないかな。残念。

 

Twitterでフォローしよう

おすすめの記事