魚腹はお好きですか?
なんとなく興味がわいて色々な土木構造物の写真を撮るようになり、それなりの年数が経ってくると、自分は古い鉄の橋がとても好きなのだなということがわかってきた。
そしてもう1つ、どうやら好きな「形」があるということにも気が付いた。
橋を横から見たときに、逆アーチに見えるような形が好きなのである。例えば以下のような橋である。
静岡県掛川市の菊川に架かるこの橋、海まで500mのところにある「潮騒橋」という名前がぴったりの橋である。「4径間連続上路式PC吊床版橋」という構造で田中賞(橋梁・構造工学に関する優秀な業績に授与)も受賞している。
難しい話は抜きにして、とにかく橋の下弦が曲弦になっている、下に魚腹のようにふくらんだ形が好きなのだ。この形のある橋には、古くなくても、鋼材でなくても、なんだかひどく魅かれるのである。なぜだか自分でもさっぱりわからない 笑。
そしてつい先日、調べものをしていたときに偶然みつけてしまったのだ、冒頭写真の橋を。わたしのツボにはまる形をした橋の名前は、「青雲(せいうん)橋」という。
青雲橋(徳島県三好市山城町)は徳島県の北西、愛媛県・香川県と3県が接する県境近くにある。2006年(平成18年)に市町村合併で三好市となった旧山城町は、平坦な場所の少ない山間の地域だ。
下の地図は青雲橋のある地域を3D表示したものだが、可住地域の少ない山城町の急峻な地形がよくわかる。
青雲橋の下を流れる銅山川は吉野川の支流で、橋から東500mのところで吉野川に合流しており、すぐ横には土讃線(どさんせん:JR四国)が走っている。
地図で見る限り、青雲橋は山肌を削り取るようにして走る国道319号と対岸の行き止まりに見える道とを結ぶ橋だ。行き止まりの先には、三好市立山城中学と公民館がある。
当初、青雲橋ができるまでは中学校に通うのも東にある土讃線のすぐ横の川口橋を通らねばならならなかったのかなと思っていた。
しかし、調べてみると、人口減少による小中学校の統廃合で、現在の場所に山城中学校舎が新設されたのは2006年(平成18年)で、これは三好市に旧山城町が統合された年だ。さらに青雲橋が竣工したのは2004年(平成16年)なので、道の利便性を確保したうえで全国でも珍しい公民館を併設した中学校校舎を建てたのかもしれない(同じ場所にもともと中学校舎があったのか、別の場所から移転したのかは不明)。
旧山城町の厳しい地形のため大型重機の設置が難しく、かつ軽量化によるコストダウンを図るなどの条件を踏まえ設計架設されたのが青雲橋である。
橋長97m、幅員5m、川床からの高さ約40m。国土地理院の標高表示で確認すると、国道側のほうが数m高くなっているので、橋も少し傾いて見える。
プレキャスト補剛桁の上に場所打ちされた上床版と、下部の弓状になっているPC(prestressed concrete:プレストレストコンクリート)吊床版、そして直径40cmのやまぶき色の鋼管で構成されるPC複合曲弦トラス橋である。
上の画像は、青雲橋を真横からクローズアップしたものだが、別工場で作った赤線で囲ったユニットを搬送し、架設場所に張ったPCケーブルの上にユニットを載せて橋を作っていったとのこと。「橋ガール #21青雲橋(三井住友建設)」さんのページ半ばあたりに実際にユニットを吊り下げている写真があるので、ぜひご覧いただきたい。
また、車も通れる自碇式PC複合曲弦トラス道路橋としては世界初とのことで、田中賞をはじめ世界的な賞も受賞している。
ちなみに「自碇式」とはなんだろうか。調べてみると、土木専門のサイトに、自碇式吊床版橋について以下のような説明が載っていた。
自碇式吊床版橋は、吊床版を主桁に定着し、吊床版から作用する水平力を主桁に負担させ、完成系においてグランドアンカーを不要とした構造です。
https://www.pcken.or.jp/techinfo/newtech/turiyuka/jitei/index.shtml プレストレスト・コンクリート建設業協会
他者(架設する両岸)に頼らず、自分のことは自分で解決するんだな・・ぐらいにしか理解できなかったのだが、先に紹介した橋ガールさんのサイトにあった手書き図解の解説を読んで、やっとストンと理解できた。
最後に、徳島新聞動画 TPVさんのYouTubeに公開されているドローン映像を紹介して、本記事の〆としたい。こういう映像をみればみるほど現地に行きたくてたまらなくなる。が、四国は遠い。でもいつかは必ず行きたい場所なのである。