2020年の9月末に青森と秋田両県を旅した。行きたい場所はいくつもあったが、ローカル線の本数は少なく、どこをどのように巡るか、計画を立てては練り直すを繰り返した。最終的に訪問地を決定できず、旅の途中で2択3択の余地を残す旅となった。
そんな中、今回非常に残念ながら諦めた訪問地の一つが、秋田県能代(のしろ)市にある喜久水酒造 トンネル地下貯蔵庫だ。
奥羽本線がまだ奥羽北線と奥羽南線に分かれていた1900年(明治33年)、奥羽北線の鶴形第一隧道が竣工した。レンガ作りの堅牢なトンネルは、後の奥羽本線が電化・複線化される昭和40年代まで現役で活躍していた。
使われなくなった古いトンネルは、その後、喜久水酒造がトンネルのある山ごと買い取り、現在は酒の貯蔵庫として見学も可能な場所となっている。
今回ぜひにと見学を希望したが、現在は青森県居住者のみに限定しているとのことで、残念ながら諦めた。中に入れなくてもトンネル入り口近くまで行くことは可能だったが、今回はそれも遠慮することにした。
そんなことがあったので、このトンネルのことは旅が始まってからすっかり忘れていたのだが、奥羽本線の東能代から大館(おおだて)に向かう特急つがるに乗っている最中、ふと思い出したのである。この古いトンネルは現在の路線とすぐ隣り合わせにあることを。だったら車窓から見えるんじゃない?と。
そう思いったった時には、もうトンネルが間近に迫っていた。しかも私が座っていたのは進行方向に向かって左側の座席。トンネルがみえる(はず)なのは、右側の窓からだ。
幸い、列車はすいており空席が目立つ。すぐに右側の空席に移動してカメラを準備する。なにしろトンネルを抜けたらすぐ、後方に旧トンネルの入り口があるはずなので、ぐずぐずしている暇はない。
ちなみに、Googleのストリートビューで、東能代方向を向いて旧トンネルの入り口を見たものが以下の画像だ。残念ながら草が生い茂ってトンネルの入り口がほとんど見えないが、赤線あたりのトンネルから出てきた列車から後方を振り返れば旧トンネルが見えないだろうか・・と期待を込めての話である。
列車はトンネルに入る。100m程度しかないトンネルなので抜けるのはすぐだ。出たときが勝負と、カメラを持つ手に力が入る。
ゴトン、ゴトン、ザー。 出た!
ぼんやりと、黒い車掌車のみが写る結果に。
考えてみれば、特急にのっているわけで、ほんの一瞬を(私の腕で)的確に写せるわけもないのである。少し考えればわかりそうなものだ。
しかし、まだもう1回チャンスがある。翌日に今日とは逆コースで、大館から東能代方面へ同じく特急つがるで向かうのだ。フォーカスしにくい写真はやめて動画をとることにした。
下の動画、トンネルに入る直前は再生速度を遅くしてある。
黒い車掌車の向こうに、ちらりと旧トンネルのレンガらしきものが見えた気がするが、どうだろう。
なんにしても、こんなチラ見ではしょうがない。いつか必ず現地を訪れて明治の時代から100年超の古き隧道に会いに行こう、そう心に誓った。