到達:2023年7月
難易度:■■■□(中級)
灯台を見に行く途中は、道が整備されていなかったり、ずっと上り道だったり、苦労することも多いが、そうであればなおさら、到達したときの高揚感が得られる。今回もそうなるはずだったのだが…。
日本海に沿って新潟から富山に向かうと、県境の手前に「親不知子不知(おやしらず、こしらず)」という難所がある。ここは断崖絶壁がそのまま日本海に落ち込んでいて、昔、徒歩で通ろうとした旅人はかなり難儀を強いられた。
そこを無事に越え、さらに県境を越えて少し行くと、ようやく平地が現れる。その手前、海に少しふくらんだところが宮崎鼻で、城山という小高い山がある。親不知子不知ほどではないにしろ、山が海岸近くまで迫っているので、宮崎漁港に通じる県道60号以外の、国道8号、あいの風とやま鉄道(旧北陸本線)、北陸新幹線はいずれもこの付近をトンネルで通り抜けている。
城山は、沖を通る船にとっても、大事な目印になっていたようだ。宮崎鼻灯台(みやざきはなとうだい、富山県朝日町)は、そこに立っている。
灯台の上り口は、宮崎集落のはずれにある鹿嶋神社の脇にある。神社の右奥にある森のどこかに灯台があるのだ。
神社の左に道があるが、神社にお参りして境内から左に行くこともできる。
すぐに右に上る道が現れる。
「中部北陸自然歩道」「国指定天然記念物 宮崎鹿島樹叢」「あさひトレイル」「津波時避難経路」みんな右に行かせようとしている(宮崎鼻灯台も同様だがその案内はない)が、それより先まで行って右を見ると、こういうものがあった。鉄道のトンネル跡だ。
入り口は木材でふさがれている。1967年ごろ廃止されたと思われるが、内部はまだきれいだ。
ここでちょっと地図を見てみよう。鹿嶋神社までは、越中宮崎駅から歩いてくることもできる(約15分)。地図では神社から灯台への道がつながっていないが、このあと説明するようにつながっている(緑の矢印)。
この地図を見れば想像がつくが、越中宮崎駅の先から現地点(トンネル入口)まで延びる白い道は、以前の北陸本線の線路跡だ。トンネルは緑の破線のようになっていて、緑の丸付近で海岸近くに出る。それが次の写真で、こちらも同じように木材でふさがれている。北陸本線を複線化するときに、トンネルを作り直したようだ。
本論に戻り、先に進もう。神社の裏手にある階段を上る。
上った先にあったのは、「クマ出没注意」の看板と電気柵だった。
電線の外し方は看板に書いてあるから、それに従って3本のうち上の1本を外してまたぎ越える(もちろんそのあと元に戻す)。
電気柵が運用されているということは、クマとかイノシシとかタヌキとかが山にいるということだ。今回、熊鈴のようなものは持っていないので、念のため、独り言をいいながら歩くことにする。だれかに会うと気まずいが、その心配はないだろう。
最初の部分だけだが、道には石が敷かれていて歩きやすい。
廃レールを使った、落石対策の柵などもある。
道は歩きやすい。ずっと上りが続くのがつらいだけだ。
道がきちんと整備されているのは、灯台を見に行く人のためではなく、ここが自然歩道に指定されているからだ。この看板はだいぶ新しい。昭和時代によく作られた「ナントカ自然歩道」は、作りっぱなしで道や看板が荒れているケースもあるが、ここは整備が続けられているようだ。
このあたりの森は「宮崎鹿島樹叢」という名前で、天然記念物に指定されている。しかも、建物があるわけではなく、そのままの状態で“自然博物館”なのだという。自然も味わいながら灯台まで行くことにしよう。
それはともかく、休みなしの上り坂は息が切れる。ん?道の先になにか…
道をふさぐように倉庫のような建物があった。
実はこれ、おやしろで、水色の板は風雨雪から建物を守るためのようだ。お供えもあった。全体に「定常的に人の手が入っている里山」という雰囲気がする場所だ。
そして、まだまだ上り坂は続く。ところどころ崖が崩れた跡がある。
そしてとうとう、灯台に行く分かれ道に到着。
ここにきて初めて、灯台の存在を示すものが現れた。右の看板は灯台の説明だが、よくある海上保安庁と燈光会の青い看板ではない(というか、例の青い看板は結局なかった)。この看板では灯台の設置が昭和30年1月になっているが、灯台の銘板では「昭和34年1月初点」になっていた。どっちが正しい?
さて、左の脇道に進もう。もう少しだ。
門柱と柵が見えてきたぞ!
宮崎鼻灯台に到着。鹿嶋神社の前から約20分だった。が…。
全景を写せる場所がない。
少し離れるともう灯室が木で見えなくなる。途中経過をさんざん書いておきながら、最後がこの写真か、という残念さだが、これが限界だ。
昭和になってからのものなので、形状的な特徴もとくにない。
苦労した後の到達感。残念ながら、灯台クエストの一番重要な部分がちょっと不発のまま終わってしまった。
仕方なく、来た道を引き返す。上りでは気づかなかった景色がこれだ。下をトンネルで通り抜けている国道8号と、あいの風とやま鉄道だ。
トラックの大きな走行音が一瞬途絶え、山のどこかにいる(かもしれない)クマと一緒に、森の静けさを味わいながら、現実へと戻っていく。