「青鬼集落」。名前を見ただけでなんだかワクワクするような集落を、地図上でみつけたのはほんの偶然だった。
JR大糸線の第一姫川橋梁(長野県北安曇郡白馬村)を訪ねる計画を立てていた時、すぐ近くにこの集落があることを知った。最初、「あおおに集落かぁ、友達想いの鬼👹がいた場所かな?などと能天気なことを思ったわけだが、正しくは「あおに」と読む。
伝統的な家屋や北アルプスを望む棚田など、日本の原風景ともいえる場所で、2000年(平成12年)には文化庁より「白馬村青鬼伝統的建造物群保存地区」に選定された。
というわけで、早速、旅の最後に青鬼集落訪問を追加。春まだ浅い信濃路へ出かけていくことにした。
いざ青鬼集落へ
map
伝統的な建造物が今も保存されているというと、人里離れた山奥を想像するかもしれないが、青鬼集落は意外にもアクセスがいい。
JR大糸線の信濃森上駅(map①)から北東に約4kmの場所にあり、駅から歩いて行くこともできる(歩く人はあまりいないだろうけど)。
青鬼集落へ続く道は1本。地図通りに進んでいくと、ほどなく集落の入口にたどりつく(map②)。ここから先は一般車両の進入は禁止のため、車を降りて徒歩で移動する。
駐車場からも、建ち並ぶ家屋がよく見える。この何とも言えない風格あるたたずまいを見れば、保存地区に指定されるのも当然だなと、見学する前から妙に納得してしまう。
ただ、最初にこの家屋の光景を見たときに、なんとなく微妙な違和感を感じた。それが何なのか、少し集落の家屋について調べてみると、その違和感のモトがわかってきた。
平兜造りの謎
青鬼集落には、現在14棟(15棟とする資料もあり)の家屋が残っている。明治後期に建てられた家屋が多く、多少造りは違うものの、いずれも南側に広い間口をとっている。
古民家といえばかやぶき屋根を思い浮かべるが、現在はすべて保存のため鋼板で被覆(ひふく)されている。屋根は三角形と台形を組み合わせた寄棟(よせむね)屋根である。
台形の上辺がつながっているところ、いわば屋根の分水嶺のようなところを「棟(むね)」と呼ぶ。この棟に小さな屋根のようなものが乗っかり、両端に文字が書かれている。
古民家だけでなく古い土蔵などにも同じように、「水」と文字が描かれているのを見たことがあった。
これは、「火伏せ」(ひぶせ)といって建物を火災から守るおまじないのようなものだ。「水」だけでなく、「寿」と描かれている家屋もあり、おめでたい感じのするおまじないだ。
こうした文字は青鬼集落以外でも、あちこちで見られるものだが、もっとこの集落ならではの大きな特徴がある。それは、下の画像のように、平側の屋根の赤線部分が欠けていることだ。
屋根の一部が切り込まれている古民家はそれほど珍しくないようだが、よく見かけるのは妻側のほうに開口部が欠けているタイプ(下の写真)。正面からみると兜に似ていることから、兜造りと呼ばれることもある。
ところが青鬼集落の屋根は平側の下部全体が大きく切り上げられていて、2階(屋根裏)部分の窓が露出している。こうしたタイプの屋根を持つ古民家は珍しいようで、平兜造り(ひらかぶとづくり)と呼ばれているとのこと。この造りの違いが、最初に感じた違和感だったのだ。自分の頭の中にあった古民家と微妙に異なるビジュアルがそう感じさせたのである。
全家屋が南向きに建てられていることもあり、2階部分に十分な採光と通気性を実現することができる。おそらくは2階で養蚕などが行われていたと推測される裏付けともなるのだ。
青鬼集落では、機能的で調和のとれた家屋が近距離に集まって建てられていることで、独特な景観をかもしだしている。そうした家屋の造りなどを意識して、集落内を散策していただくとまた新たな発見があるかもしれない。