ザマザが支える伝統の流れ橋「松日橋」 岩手県住田町の橋【2】

 
 
 

 

 

岩手県の住田町を訪問するにあたり、見てみたい橋が3つあった。1つ目はすでに紹介した「葉山めがね橋」だ(記事へのリンクは本記事の最後に)。そして、2つ目が今回紹介する「松日橋」(まつびばし)である。

以前、埼玉県に多く見られる冠水橋を取材したことがある。川が増水した時に流れてくる木材などが、橋を直撃し破壊されるのを防ぐため、水の流れの妨げを最小限にし水没することも想定した橋のことである。地域により沈下橋、潜没橋など様々な呼び名がある。

松日橋は「流れ橋」と呼ばれる類の橋で、現地を訪問するまでは埼玉で見た冠水橋を同じようなものだと思っていた。ところが、実際には少し違う。どんな点が違うかは、このあと実際の写真とともに紹介していこう。

 

松日橋は、葉山めがね橋から気仙川を下った南西4kmほどのところにある。

 

 

 

上の地図でもわかるように、松日橋の南側は国道340号と気仙川がぴったり並走している。訪問時は、国道340号を北上して松日橋を目指していたので、進む方向の右側に松日橋が見えるはずである。私は運転していないので、スマホの地図と周囲の風景を確認しながら、窓の外をみていた。が、どうしたことか、橋に気が付かず通り過ぎてしまったのだ。

なぜか。あとで検証してみてわかったのだが、橋の手前に木造の建物がある(下の画像)。この建物に隠れて橋に気が付かなかったのだ。


 

 

Google ストリートビューより

  

 

 

通り過ぎてしまったことにすぐ気が付いたので、その先にある橋を右折して対岸にある細い道を引き返すことにした(下の地図)。   

 

  

緑矢印の方向に進み、松日橋の左岸までいく  Googleマップより

 

 

 

左岸側に並走する細い道から対岸の国道方向を見ると、稲穂の向こうに小さく木の橋のようなものが見える(下の写真)。あれが、松日橋だ。

 

稲穂の中央すぐ上に松日橋がみえる  ☆クリックで拡大

 

 

見渡す限り周囲に駐車場のようなものはない。ただ車はもちろん人通りもまったくなかったので、車を道の端に寄せドライバーを車内に残して、一人で松日橋に近づいてみることにした。

あぜ道を歩き、松日橋の左岸渡り口まで近づく。

 

左岸側は橋の入り口両側に害獣除けの電気柵がある ☆クリックで拡大

 

松日橋は、長さ11m・幅50~60cmの4枚の板をつなぎ合わせた木製の橋だ。橋板を支える橋脚は、ザマザ(叉股)と呼ばれる二股に分かれたクルミやクリの木の枝を使う。ザマザは川床に固定せず、橋板の重みとザマザにかかる川の水圧でバランスをとり、平常時は安定した橋として機能する。増水時に水位が上昇すると、橋板は浮き上がりザマザは倒れて流れていく仕組みだ。

埼玉の冠水橋は、橋が壊れないように工夫されたものだが、松日橋は最初から壊れることも想定しての橋だ。橋板やザマザが流れて行ってしまうこともあるゆえの「流れ橋」なのである。

しかも、ただ橋のパーツを流れさせてしまうわけではない。 橋を渡って、橋の細部をよくみてみよう。

 

橋の左岸から渡ってみる

 

実際に橋を渡ると見た目よりずっとしっかりとしており、足元が揺れる感じもない。板幅が狭いので注意は必要だが、下流側に竹の手すりがあるので安心感がある。ちなみに、4本の橋板は住田町産のスギが使われているとのこと。

上の写真の一部を拡大したものが下の写真だが、橋板、ザマザ、手すりの竹などにワイヤーがくくりつけられている。上流と下流のザマザをつなぐ補助板と、手すり用の柱などは固定する目的で針金がまかれているが(下の写真赤丸)、黄丸で囲んだ箇所は固定するためのワイヤーではないようにみえる。

実は、こうした橋板などは増水時流されてしまっても、ワイヤーでつながっていることで後で川の中から回収することもできる(場合もある)ようなのだ。

 

☆クリックで拡大

 

 

 

国道340号沿いの右岸側には、松日橋についての説明板が立てられていた。この下有住地区では、かつては同様の形式の橋が7本あったが、現在残っているのはこの松日橋のみということだ。

 

 

 

 

私がこの松日橋の存在を知ったのは今年に入ってからだが、その時点ではGoogleマップには松日橋のランドマークに「修復中」といった表示がでていた。きっと増水で流されてしまったのだなぁ、と思っていたのだが、4月頃に修復が完了したようだ。

下のツイッターは、この橋を管理する松日橋管理組合のツイートだが、なんと橋を修復する様子が詳細な写真で紹介されている。なかなか見られないものなので、ぜひ下のツイートをクリックしてご覧いただきたい。

 

こうして地元の方々が協力し合い橋を架ける様子は、あらためて静かな感動を呼ぶ。

通常の橋は近くにあるので、多少不便ではあろうが、何が何でもこの場所に橋を架ける必要はないのかもしれない。しかし、橋が流されるたびに、松日橋は繰り返し修復されてきた。

「今回は50点」と架けなおした橋をみて採点する姿には、受け継がれてきた文化を風化させない心意気が強く根付いているのだと感じた。

 

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