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船舶の運航を妨げないよう工夫して建設された橋がある。日本で最も有名な橋の一つは、佐賀県にある筑後川昇開橋だろう。橋の中央にある橋桁が上下に動くことで、船舶の通行が可能になる。
昇開橋も現存するものは少ないのだが、それより以前からあった「運搬橋」と呼ばれる形式の橋がある。現在、建設当時の面影を残しているものは世界でも数えるほどだ。
冒頭の写真は、アルゼンチン・ブエノスアイレスにあるプエンテ運搬橋。1908年から6年かけて建造され、1960年までは現役だった。その後、なんとか解体の危機を免れ、再び2017年から「in use」となり観光名所ともなっている。
運搬橋とは
そもそも、運搬橋とはなんだろうか。
運搬橋の目的と構造が、簡潔にアニメーション化されているので、まずはこちらをご覧いただきたい。
船舶航行の邪魔にならないように川に橋を架けようとすると、人や車両が通行できる橋桁の位置は高くなる。その結果、橋桁へのアプローチが長くなったり急勾配となってしまう。特に馬車による通行が主流だった時代は、そう簡単な話ではなかった。
このため考え出されたのが運搬橋である。
上のアニメーションでもわかるように、吊り下げたゴンドラに人や車両をのせて運んでしまえという仕掛けだ。
ゴンドラに乗り込む乗客たち
下の3枚は、プエンテ運搬橋のゴンドラに乗車するために集まる人と、実際に移動中のゴンドラを映した貴重な写真である。特に3枚目は、車数台に馬車まで乗っており、人はその隙間を埋めるようにすし詰めである。(していただろうけど)重量制限とかちゃんとカウントしているのか心配になる。
このゴンドラが実際に動く場面をみてみたい!と思ったあなた。当時の記録映像が残っているので、下の動画をご覧いただきたい。
スペイン語なので何を言ってるかさっぱりわからないが、この橋の説明動画なので内容はなんとなくわかる。
特に5分18秒あたりからは、必見だ。橋の近くで積み込む荷物を準備したり、ゆらーりゆらりとゴンドラが移動するシーンが映っている。
7分50秒過ぎからは、おそらく近年になってからの補修作業だろうか、関係者の方々が作業する様子が記録されている。アルゼンチンタンゴのBGM付きだ。
下の写真は、イギリスから運び込んだ資材を現地で組み立てている様子を撮影したもの。
こういう写真って、歴史的記録として本当に貴重だと思う。
プエンテ運搬橋のいま
南米大陸の南東、南大西洋に面する場所に、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスがある。世界で8番目の広い国土を持つアルゼンチンだが、経済産業はブエノスアイレスに一極集中の構造を持つ。プエンテ運搬橋が建設された100年前も、それなりの賑わいと人や物の動きがあったことが想像できる。
各方面のデータを調べてみるとプエンテ運搬橋のスパンは、103.6mと77.5m、いずれかの数値が記載されている。Googleマップなどの地図上で測ってみると、川幅が約100mなので、77.5mというのは、上部にある橋桁の内側(2本の橋脚の間)の長さを指しているのかもしれない。
また、水面から桁下までが43.5mで、桁上までが52mとなっている。
ちなみに、プエンテ運搬橋のすぐ隣に、似たような形の赤い橋がある。
この赤い橋、プエンテ・ニコラス・アベラネダ橋(Puente Nicolás Avellaneda)は、1940年に竣工。冒頭で紹介した筑後川昇開橋と同じく、通行するための主桁が上下に動く昇開橋である。
60年近く雨ざらしになっていたプエンテ運搬橋は、修繕メンテナンスの後、2017年に再始動したと聞いたが、実際には「in use」とはいっても、あくまでも動かすことのできる状態にした・・というレベルのように思える。
が、それでも世界に残る歴史的に貴重な土木遺産として、その美しいトラスの骨組みを私たちに見せ続けてほしいと思う。