どのくらい先にあるかわからない旧熊の茶屋を目指して走っていると、停車しているマイクロバスが目に入る。
運転手さんも側に立っているので「あれだ!」と思い、満面の笑みで走りよるとどこかの私設ツアーのバスだった。赤面。
シャトルバスはもう少し先に停車していた。
なんとか乗客の最後の1人として間に合う。
幸いにも最前列の席が空いていたので、ほっとして腰を下ろす。
ほどなくバスは岩島駅に向けて出発。
最前列だと写真も撮りやすい。
もしかしたら、撮り逃した樽沢トンネルも撮れるかも!と思ったが、さすがに無理だった。
「お客さんは駅まで?」
途中の「天狗の湯」を出たあと、運転手さんが突然話しかけてきた。
え?と思って車内を見渡すと乗客は私一人。
他の乗客はすべて天狗の湯で降りてしまったようだ。
なんだ眺めのよいタクシーのようで、200円では申し訳ない感じ。
歩けば1時間かかるところでも、バスならあっという間。
乗車できてほんとによかった。
運転手さんありがとう。
シャトルバスの終点は、岩島駅から300mほど離れたところにある。
ここから駅まではすぐだ。
長野原草津口行きの電車がくるまでは時間がある。
小さな待合室には、不通区間(長野原草津口駅~大前駅)のバス代行案内が掲示されていた。
被害が大きかったので、復旧には相当時間がかかりそうだ。
岩島駅は無人駅だ。
次の川原湯温泉駅も事前情報では無人駅と書いてあった。
さて、切符はどうするのだろう?
工事の黄色い服の方に(だめもとで)質問してみた。
当然のことながら、ちょっとわからないとのこと。
ただ、今日は川原湯温泉駅には駅員がいるはずだと教えていただいたので、それなら改札で話をすればいいだろう。
そのまま、ホームに立ち電車を待っていると、先ほどの黄色い方がやってきた。
親切にも、確認をとってくれたようで、最後尾の車両に乗り車掌さんに料金を支払えばいいらしい。
いろいろありがとうございます。
トンネルを抜けるとそこは・・
車窓の景色を期待したいところだけれど、残念ながら岩島駅と川原湯温泉駅の間は、ほぼトンネル。
下の3D俯瞰図をみていただければわかるように、吾妻(あがつま)川と旧国道145号線から左にカーブして離れたあと、南西方向にある新駅まで山の中をまっしぐらに進んでいくのだ。
トンネルを抜けるとすぐ、川原湯温泉駅に到着。
吾妻線の付け替えに伴い、2014年10月、川原湯温泉駅は旧駅から南西方向約1.5km離れた70mほど高い場所に移転した。
5年前に作られた駅だが、まだとても新しく、つい先日出来たかのような印象を受ける。
川原湯温泉駅からは徒歩で、北東方向にある八ッ場(やんば)大橋(下図⑦)を目指す。
八ッ場大橋から下流側にある八ッ場ダムを眺めるためだ。
この橋からは少し距離があるが、真正面からダムを見ることができる。
そしてもう1つ、上流側の様子も確認したい。
実は今回一番見たいと思っていたものが、八ッ場大橋のすぐ上流にあるのだ。
川原湯温泉駅はとっくに完成しているのだが、その周囲の道路は工事している箇所があちらこちらにある。
八ッ場ダムの来年春の完成に合わせて周辺環境の整備が大急ぎで進んでいる感じだ。
本当なら駅をでて、すぐ左手にある道をいけば最短なのだが、現時点では通行止め。
仕方ないので大きく迂回して、県道375号線にでて川原湯温泉トンネル(上図⑧)方向に向かう。
下の写真は、川原湯温泉トンネルの入り口付近から駅方向を振り返ったショット。
手前にこちら側にカーブしているのが、駅前を通る現在通行止めの道路である。
来年の春まで、周囲の様子は刻々と変わっていくのだろう。
トンネルを抜けるとそこは・・
気配を感じた先にいたモノは
駅前には期間限定(夏場と紅葉シーズンらしい)の臨時レンタサイクルもあったが、さほどの距離もないしと歩いていくことにした。
八ッ場ダムを見学に来る人は多くいるが、駅から徒歩で行く人は多分相当少ない。
車がびゅんびゅん通るのみである。
まぁ歩きやすい舗装路なので、黙々と歩いていく。
空気が悪いので、あまり長いトンネルの中を歩くのは嫌だななどと思いつつ、目の前の川原湯温泉トンネルの手前まで来たとき、なんていうのだろうか、本能的な感覚で何かの気配を感じた。
何かに振り向かされるように左を向くと、何かがこちらをみている。
なんだろう?
すぐにわからず、3秒ぐらいしてから、「鹿」だと気付く。
長いこと生きてきて、道端でばったり鹿に出会うという経験がないため、脳がすぐに処理できない感じ。
熊に出会ったら、もっと大変なことになるんだろうな。
刺激してはいけないので、ちょうど首からぶら下げて手に持っていたカメラで素早く撮影したものが、下の一枚。
そのまま鹿に軽く会釈して、何事もなかったようにゆっくりとトンネル方向に向かった。
母さん、あの後、鹿はどうしたでせうね。
竣工2004年のこのトンネル、336.5mの長さがあるが、換気がしっかりしているのか交通量がさほどでもないからなのか、思っていたよりも全然、空気が悪くない。
県道を離れ、「川原湯温泉 王湯」という温泉施設の横を通り吾妻川のほうに近づいてみる。
前方に見えるのが、目指す八ッ場大橋だ。
台風19号でダムが満水になったとき、水は泥水で濁っていたが、3週間以上たっても水の濁りは変わっていなかった。
訪れたこの日は、午前9時の時点で貯水位(標高)は566.6m。
貯水率は約50%程度である。
鳥にでもなって俯瞰で全体を眺めてみたい衝動にかられつつ、八ッ場大橋へ急ぐ。
やがて、抜けるような青空の中、八ッ場大橋が目の前に現れた。
このまま歩道を歩けばすぐ、右手側に八ッ場ダムがみえるはずだ。
川原湯温泉駅は高みに昇り、旧駅は八ッ場ダムに沈む② に続く
(たぶんこれで最後)