人同士の通信手段がデジタルに席巻された今も、手で紙に文字を書き相手に想いを伝える手段にこだわる人がいる。2023年10月に公開された大分むぎ焼酎二階堂の特別篇「旅する言葉」は、時空を超えた想いを映像にしたCMだ。
一人の女性が、ノスタルジックな文具店でインク壺を手にする。便箋の紙の手ざわりが、何か遠い記憶を呼び起こしたようだ。
お店の名前は、Linde CARTONNAGE(リンデ カルトナージュ)。道路前の赤いポストと呼応するような、ビル2階の窓にある赤い看板が印象的だ。
石垣横の小道を通り、女性は帰途に就く。
撮影された小路は、福岡城の舞鶴公園。石垣は野面積みかなと思ったが、西日本新聞の「福岡城の石垣」を読むと、複数の種類がありもっと奥が深いようだ。
真新しいインクでペン先を走らせる手紙は誰に宛てたものだろうか。
幻のようなポストが、草原に、海辺に、静かにたたずんでいる。
草原に1本だけたつのは、どんぐりの木。とても印象的な風景だ。CM中で船の汽笛のような音が聞こえたので、海が近いのかな?と思っていたが、確かにすぐ東側が博多湾だった。
ポストはもちろん演出。(草原は私有地なので立ち入ることのないよう)
指先から放たれた文字は、距離を超え、時に時間さえも越えて、誰かのもとに届く。まるで水面に投げた小石がたてるさざ波のように、書き手自身の魂にも小さな波紋が届くのだ。
1分ほどのCMの終盤は、こんなナレーションで締めくくられる。
よく晴れた週末の朝、ペンを握ろう
雨のやまない夕方に、引き出しを開けよう
ほしいのは手触りのある言葉だけです
手紙の2枚目を繰る紙ずれの音、
波の音、
木の引き出しを開ける音、
そして最後に、蒸気機関車の汽笛と走行音がかぶり木造の古びた駅がうつる。
JR九州、肥薩線の大隅横川駅(鹿児島県霧島市)だ。開業は明治36年で、開業当時の駅舎が今も原型をとどめて残っている。
旅の終着は、この駅か。はたまた、ここから新たな旅立ちが始まるのか。人と人をつなぐ文字が紡ぎ出す物語に終わりはないという、一つの象徴がこの駅なのかもしれない。
ちなみに、この大隅横川駅のホームには、「タブレット受け」が残っている。下の写真の左側ホーム上にある白い杭で、上部にらせん状のものが乗っているやつだ。列車同士の衝突を防ぐための交通システムの道具(タブレット)を、ここにひっかけて利用していたものだ。
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