渥美清といえば、誰もが思い浮かべるフーテンの寅さん、車寅次郎の演者である。男はつらいよシリーズで多くの作品がある国民的映画にも関わらず、私はただの1本も通しで作品を観たことがない。
おいちゃんやさくらがいて、旬の女優さんのマドンナと恋バナを咲かせるという定番パターンの中で、全国各地の風情ある景色を差し込みながら、寅さんの心染み入る名言が人気なのもわかっている。が、どうも人情いっぱいの家族愛が苦手なのか、断片的にしか観たことがないのだ。
天邪鬼なのは承知の上で言わせていただくと、私にとっての名優「渥美清」は、映画「八つ墓村」(やつはかむら)に登場する淡々とした名探偵の金田一だ。
横溝正史原作の「八つ墓村」は人気が高く、TVドラマや映画など、時代を超えて何度もリメイクされている。そんな中でも渥美清が金田一に扮し1977年(昭和52年)に公開された映画「八つ墓村」は、謎解きサスペンスというよりもホラーに近く、心理的な怖さでは他の追随を許さない(と勝手に思っている)。
と、長々前振りを書いたが、ここで八つ墓村の映画レビューをするつもりはなく、話をしたいのは映画の中で登場する駅についてだ。
物語が始まるのは、映画公開と時間軸は同じ設定。横溝正史の作品を映像化したものは、原作と同じ戦後まもない時期の設定が大半なので、その意味でも渥美清版八つ墓村は異色である。
舞台となるのは岡山県の山奥で、多治見家という山林資産数十億という素封家に、その血筋を引くとされる若者が列車に乗って訪ねていく。
多治見家がある架空の八つ墓村は別の場所でロケされたようだが、主人公を演じる寺田辰弥(演:萩原健一)が、八つ墓村に向かうべく列車から降り立つのは備中神代(びっちゅうこうじろ)駅である。
地図をみてわかるように、備中神代は芸備線と伯備線の分岐点となる駅だ。
上の画像は、備中神代駅に停車した列車を横に、ホームを歩く主人公たち(中央グレースーツの男性と白いスーツの女性)をお辞儀をしながら出迎える男性が写っている。正面奥には、ホームからほど近い場所にトンネルが見える。
おそらく、下にあるGoogleストリートビューで確認できるトンネルだろう。映画撮影から45年近くたっているが当時とほぼ変わらない姿に見える。
下の画像は、当時の駅舎である。開業は1928年(昭和3年)だが、おそらく大きな改修なく開業当時の姿を残していると思われる。
これまでも明治から昭和初期に建造された駅舎を見てきたが、この備中神代駅にも長い庇(ひさし)など同様の特徴がよく表れている。
味わいある木造駅舎は、2001年(平成13年)に解体され、待合室のみ新しく設置された。寂しい限りではあるが、下の写真を見る限り、ほんのほんの少しだが当時の面影がのこっているようにも見える。
備中神代駅の話は、とりあえずこれでおしまいなのだが、実はこの駅のとなりに運行上においてなかなか面白い秘境駅がある。その話はまた別記事で取り上げたいと思う。