冒頭の写真、鉄橋の橋脚がおもしろい形をしていることに気づいただろうか。 この鉄橋は、香川県の私鉄、ことでん長尾線の新川鉄橋(木田郡三木町)だ。
新川は、香川県三木町の高仙山を水源とし瀬戸内海に流れ下る二級河川。
ことでんが新川を渡る鉄橋が、今回紹介する新川橋梁である。
架設された時期はかなり古い。
1912年(明治45年)、高松電気軌道時代に出晴から長尾まで路線が開業し、その前年に新川橋梁は完成している。特徴的なのは橋脚で、片側が階段状になっている。専門的には「階段状練石積み橋脚」と呼ばれるものらしい。
こうした橋脚の片側にでっぱりがあるようなものは、過去にも目にすることがあった。3つほど紹介しよう。
1915年(大正4年)に建設。西武池袋線の複線化に伴い廃橋となっているが、現存している。写真は2019年に撮影したものだが、上流側に切石積みの水切りのようなものがあるのがわかる。
(過去記事はコチラ→「【前編】旧入間川橋梁 土木遺産を訪ねて~西武池袋線」)
場所は変わってアメリカのオハイオ川に架かる橋を紹介しよう。1905年に完成したベンウッドブリッジだ。(過去記事はコチラ→「映画アンストッパブル 暴走貨物が駆け抜けた100年橋梁」)
こちらも上流側に橋脚と一体化した美しい階段状の構造が見える。調べたところによると、流れてくる氷を砕くためのものらしく、なんとも豪快な印象だ。
3つ目に紹介するのは冠水橋(沈下橋)だ。増水時に橋自体が水没することを想定し、橋そのものの流出を防ぐ構造の橋である。八幡橋は木製の橋だが、上流側に流木除けの木組みが設置されている。
こうして、3つの橋を見てみると、すべて川の流れを受ける上流側に特徴的な構造がある。
ところが、ことでんの新川橋梁は、下流側に段々の構造があるのだ。
いったいどんな役割があるというのだろうか?
実はことでん長尾線は、開業時に複線化を想定していた。単線から複線にするときに、既存の橋脚をうまく利用できるように、以下のような構造を想定していたのだ。
冒頭の写真は下流側の右岸から撮影したものだが、下のストリートビューは左岸側から撮影したもの。
本来なら、階段構造がある下流側に線路を敷き、2線の上下線が通るはずだったのだ。
残念ながら複線化することはなかったが、全国的にも貴重な構造の橋脚が、100年以上経ってこうして現役で残っていることに称賛の拍手を送りたい。