宮城県、南三陸町の志津川地区に、不思議な形をした人道橋がある。
建築家の隈研吾氏が手掛けた「中橋」だ。左岸側の「さんさん商店街」と右岸側の「南三陸町震災復興祈念公園」をつなぐ、同地区復興を象徴する橋なのだ。
円管を用いた鋼トラス橋で、地元産の杉をふんだんに使ったダブルデッキ構造となっている。
2020年10月12日には、南三陸町震災復興祈念公園全体開園式と中橋開通式が行われた。当時は生木の薄茶色だった橋も、2年経ち周囲の景観になじむ落ち着いた色合いに変化していた。
アプローチに誘われ、まずは下のデッキを歩いてみる。
床板のデッキ部分を歩くと、ほんの少し木板を踏みしめるような音がする。若干の揺れが、吊り橋を渡っているような感覚にもさせる。
訪問日の日没は16時20分。日没が近づくにつれ観光客は姿を消し、さんさん商店街からも人影が消える。
中橋は夜間になるとあかりが灯る。商店街の方に事前に伺ったところ、何時と決まっているのではなく自動センサーで点灯するようだ。無人灯台の点灯と同じで、適度な暗さを感知して点灯するのだろう。
肌寒さをかみしめながら、左岸のほとりでじっと待つこと数十分。日没後数分して、静かに点灯。
まだ周囲に明るさが残っていると、橋の照明はサイドから見るとぼんやりとした感じだ。が、橋の入口まで来ると、たそがれ時ならではの、なんとも雰囲気のある空間が出現。
賑わいのある商店街と鎮魂の祈念公園とをつなぐ「祈りの場」を意識したデザインコンセプトが具現化されていて、参道の入り口などに見られる太鼓橋のイメージとも重ねあわせられるデザインは秀逸だ。
橋を渡り右岸側に行ってみる。
日中ならば、上層のデッキからは海が望める。
南三陸はいつもと変わらず、静かな夜を迎えようとしている。