川原湯温泉駅は高みに昇り、旧駅は八ッ場ダムに沈む②

 

八ッ場(やんば)大橋から八ッ場ダムを眺める前に、移転する前の旧川原湯温泉駅について確認しておきたい。
八ッ場ダム建設によって、JR吾妻(あがつま)線の岩島駅-旧川原湯温泉駅-長野原草津口駅の区間が付け替えられ、2014年10月に川原湯温泉駅が場所を移したことはこれまで紹介した通り。
吾妻川や旧国道145号線と並走するように旧線が走っていたが、現在は旧線より南側にふくらむように新線が走っている。

この区間では、旧線は吾妻川の左岸を走っているが、旧川原湯温泉駅は吾妻川の右岸にあるため(下図⑨)、駅の前後で鉄橋を渡り元の左岸に戻っていく(下図ピンク破線)。

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実はGoogleストリートビューで、まだ現役だった旧川原湯温泉駅の姿を見ることができる。(2019年現在)
下の写真は、廃駅になる2年前のもの。
のどかな駅舎の向こう側に建設中の橋脚が2本見えている。
これが、現在の八ッ場大橋の橋脚だ。

2012年8月 Googleストリートビューより

 

 

Googleストリートビューで、駅前の通りを長野原草津口駅方向(上写真の左方向)に道なりに進んでいくと、吾妻川を渡る。
下の写真は、旧国道145号線から見える旧線の鉄橋と、建設中の八ッ場大橋の橋脚である。

地図でもわかるように、吾妻川に架かる鉄橋が道路に比べ斜めになっているのがわかる

 

 

残念ながら、現在のGoogleマップの航空写真では旧駅の跡をほとんど確認することができない。
国土地理院の2004年頃の航空地図をみると、旧駅や旧線の位置などがざっくりと確認できる(下写真)。

八ッ場ダムが建設されているだいたいの場所をオレンジの線で囲んだ

 

泥水湛える八ッ場ダム

それでは実際に八ッ場大橋を渡ってみる。
橋中央より少し手前から八ッ場大橋を撮影した写真が以下のもの。
八ッ場大橋に近づく前に水の色を見ていたので驚きはしなかったが、こうやってダムとしてせき止められた広大なダム湖をみると、なんともいえない気分になってくる。

だって、目の前のダムのすぐ下流には峡谷の鹿飛橋があって、生命力あふれる乳緑色の水が流れていたわけなんだから。

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台風19号が襲来した後、国土交通省 関東地方整備局 八ッ場ダム工事事務所より報道向けの資料が公開されている。
それによれば、八ッ場ダムは今年の10月1日に試験湛水を開始している。
試験湛水とは、最高貯水位まで水を貯めた後に最低水位まで放流し本稼働前にダムの安全性を検証する試験のことだ。

台風19号の影響で大雨が降った際には、10月15日午後6時時点で最高貯水位(標高583m)に到達し貯水率が100%になっている。
試験運用中とはいえ、ダムとしての一つの役割を果たしたことで、大きく報道されたことは記憶に新しい。

この時の発表では、「満水状態を約1日継続したのち、1日1m以下のスピードで水位を最低水位まで降下させ試験湛水を完了する」とある。
先にも書いたように、この日は 標高566.6mで満水時より17mほど水位が下がっていることになる。

貯水率は約50%だが、素人目にはもっとパーセンテージが大きいように感じてしまう。
ただ先の報道向け資料に掲載されている満水時の写真を見れば、少し傾けば水が溢れ出てしまうのではないかと思わせる圧倒的な飽和感があり、目の前の貯水率が50%程度だというのも、なんとなく頷けるのだ。

上の写真右下あたりに、旧川原湯温泉駅は沈んでいるはずだ。
といっても、去年の時点ですでに駅は完全に解体されていたので、駅のあった場所がダム底に沈んだということだ。

 

消え失せた鉄橋

八ッ場大橋を引き返し、今度は上流側の歩道を歩く。
目の前に広がるのが、この光景だ(下写真)。

私が今回一番見たいと思っていた旧線が吾妻川を渡るための、あの斜めの鉄橋が見当たらない。
1年前までは確かにあったので、解体される前に見たいと思っていたのだが、もう解体されてしまったのだろうか。
もっと早く来ればよかった・・と橋の上で後悔しきりだったのだが、しばらくして気が付いた。

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下の写真は、2018年11月、ちょうど1年前に八ッ場大橋から上流側を撮影されたものだ。
斜めの鉄橋も、その奥に2本ある旧国道145線もしっかり映っているのがお分かりいただけるだろう。
そしてそのまま目線を左方向に移動してほしい。
左側には人工的に作られた傾斜した黒っぽい壁のようなものがある。
その壁の場所を覚えて、1つ上の写真をみてほしい。

 

鉄橋も旧国道145線の橋も、川沿いの紅葉した樹々も、全部、茶色い水の下に沈んでしまったのだ。
これまでもダム湖の底に村が沈んだという日本各地の歴史は聞き知っていたけれど、事実を直接目で見るとはこういうことなのかと、しばし呆然とするばかりだった。

良い点も悪い点も含めて、ダムを作るとはどういうことなのか、そのわずかな一端に触れた気がする。
そしてこういうリアリティを感じることが、とても大事なことなのではないかとも思った。

八ッ場ダム方向から川原湯温泉駅を望む3D写真 土地のだいたいの高低差がわかる

 

八ッ場大橋の近くに、八ッ場資料館がある。
質素な作りの建物だが、八ッ場ダム建設の長い長い歴史が壁に年表として貼られており、近くまで来たならぜひ立ち寄りたい場所だ。

入場料は無料

資料館内にあったジオラマ

 

周辺は、新しい道路や商業施設が着々と整備されている。
計画的な美しさはあるが、同じような整備計画で作られた場所と似た感じになる。
が、それは仕方ないことなのかもしれない。

この近くにたぶん鉄橋は沈んでいる

 

川原湯温泉駅まで戻ってくる。
まだ時間は午後1時11分。
帰途につくには、まだ早いかもしれないが、なんだか今日はもう十分な気がした。
この時間に出発すれば、母と夕食を一緒に食べられるだろう。

川原湯温泉駅 改札

 

きっとまたこの場所にくるだろうな。
八ッ場大橋のたもとで色づく里山の紅葉を見ながら、そう思った。

 

これまでの旅
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