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横浜の埋め立て地「新港ふ頭」に、大正時代に造られた古いクレーンがある。
工事現場で見かけるような背の高いクレーンではなく、武骨でがっしりとした、いかにもパワフルな顔つきをしたジャイアント・カンチレバークレーンだ。金槌のようなフォルムから、通称「ハンマーヘッドクレーン」と呼ばれている。
同タイプで日本に現存するのは3基のみ。そんな貴重なものが横浜の観光地のど真ん中にあることを全く知らなかった。
ちょっと近くに用事があったこともあり、早速見学に行くことにした。
埋め立てで造成された新港ふ頭
大昔、馬車道近辺の会社に勤務していたので多少の土地勘がないわけじゃない・・のに、まるで初めて訪れたと思えるほど、新港地区の様子が変わっていた。
何がどこにあるのか見当がつかない。でも、とてもわくわくする。
上の写真は海沿いの遊歩道からハンマーヘッドクレーンを写したものだ(地図Aの黄点線円)。すぐ右側にある大きな建物は「横浜ハンマーヘッド」(地図Aの②)。
似たような名称で紛らわしいが、2019年10月31日にオープンした「客船ターミナル」「ホテル」「商業施設」が融合した新名所である。オープンした頃は、まだ世界を新型ウイルスが席巻する前だと思うと、複雑な心境になる。
新港ふ頭は、1899年(明治32年)から1914年(大正3年)にかけて埋め立て・造成された。増大する貿易貨物の効率化のため、日本初の荷役専用クレーンとして導入されたのが、ハンマーヘッドクレーンである。
現在は、2020年に整備されたハンマーヘッドパーク内に、間近で見学できる状態で保存されている。保存とはいえ、今も稼働できる状態になっているというから驚きだ。
イギリスから来た港の助っ人
ハンマーヘッドクレーンは、1913年(大正2年)にイギリスのコーワンス・シェルドン社(Cowans Sheldon & Co. Ltd.)が製造したものが輸入された。
クレーンの吊り上げ能力は、50トン。それだけだとピンとこないが、アフリカゾウ(1頭およそ5トン)10頭を一度に吊り上げられる・・と考えると、なかなかのものじゃないだろうか。
クレーンの基礎部分。思っていたよりあっさりしているように見えるが、埋め立て地のような軟弱地盤に適した「ニューマチックケーソン工法」で確かな基礎作りがされているとのこと。私の理解を超える内容だが、少なくとも関東大震災を無事に乗り切ったのだからその技術は確かなものなのだろう。
進化し続けるふ頭
ハンマーヘッドクレーンは、港のコンテナ化が進んだことにより、2001年(平成13年)に現役を引退した。
横浜は古くから観光地としても栄えてきた。このためだろうか、古いものと新しいものをシームレスに融合させて、観光客を楽しませる工夫が町のあちこちに見られる。
例えば、下の写真にある線路だ。
「ハンマーヘッドパーク」を整備する際に、土木遺産として線路がしっかり残るようにデザインされている。
下の写真は、さきほどの説明板にあった古い写真を大きくしたものだ。いずれも当時の様子が垣間見られる貴重な資料だ。
ちなみに、国内に現存する残りの2基は、両方とも長崎県の三菱重工業長崎造船所と佐世保重工業佐世保造船所において現役で活躍しており、国の登録有形文化財になっている。
大正、昭和、平成と88年にわたり、横浜港の発展に寄与してきたハンマーヘッドクレーン。進化し続ける新港ふ頭の古くて新しい「顔」として、これからもこの地で、私たちにその姿を見せ続けてくれるのだろう。