ダムに対する強い想いと、驚くほどの知識を持つダムマニアの方々に比べれば、私のダム愛など、語るのもはばかられる程度のものだ。しかしながら、そんな私にも、心が浮き立つ好みのダムというものがある。今回訪問した玉淀ダムは、まさに直球ど真ん中。武骨なゲートに絶妙なジェードグリーン(Jade Green)がよく似合っている。
赤いアーチと緑のダム
玉淀ダムは、埼玉県の北西部にある寄居町を東西に通り抜ける荒川に位置し、ライン下りで有名な長瀞(ながとろ)の下流域にある。
堤高:32m、堤頂長:110m、1964年(昭和39年)に竣工した重力式コンクリートダムである。
上の地図でもわかるように、下流域に2本道路が走っている。ダムに近いほうから順に末野大橋、折原橋だ。末野大橋は自動車専用道路で、両岸の河岸段丘よりも高い位置に架けられているため相当な高さがある。それゆえに折原橋からダム方向をみると、末野大橋のアーチ部の中に、6門の大きなローラーゲートのダムがちょうどいい塩梅で見える。
アーチ部分の赤とダムの緑が、秩父山麓の豊かな自然の中で絶妙なバランス感で調和している。
以前の玉淀ダムはスモーキーな水色だった。現在の色になったのがいつからなのか調べきれなかった。ただ、こちらのサイトに第5ゲートの再塗装(2019年)の貴重な写真が掲載されているので、カラーチェンジは2018年よりもだいぶ前のことなのだろう。以前の水色もそうだったが、ゲートごとに微妙に色が違うのも再塗装のタイミングなどに理由があるのかもしれない。
ダムに近づくには左岸からアプローチする。
第1ゲートの横に放流サイレンと思われる赤いサイレンが2基ある。個人的に、放流サイレン=赤というイメージがある。国土交通省の「放流警報装置標準仕様書」には特に色の規定はないようだが、やっぱり「赤」が標準仕様なのだろうか。
櫛挽台地に水をひく
玉淀ダムは堤頂部がキャットウォークになっており、向こう岸まで歩いて渡ることができる。時期によるかもしれないが、特に入場の制限などはない。
玉淀発電所は最大出力4300kW、16.8mの最大有効落差で発電をしている。
玉淀ダムは、かんがい・発電を目的とした多目的ダムだ。玉淀ダムから取水された水は、導水幹線からいくつもの用水路に分岐し、櫛挽(くしびき)台地を潤す役割を担っている。(櫛挽台地は、荒川の中流域と利根川水系の小山川にはさまれた農業地帯)
上の写真は、ダムの左岸にある取水口。ここから取水された水は導水幹線を通り櫛挽台地に流れていく。
下の写真、キャットウォークの床も緑色。右手の上流側、玉淀湖は水面の高さが近いので、あまり怖さを感じない。左手はローラーゲートの裏側なので、下をのぞき込むと吸い込まれそうな感覚に襲われる。
ダムのキャットウォークから下流側を見ると、末野大橋と折原橋がよく見える。ダムができる前と比べれば水量はずいぶんと減ってしまったが、長瀞の景色とはまた趣の異なる風情がある。
「玉淀」の謂れともなった、玉のように淀みのない水の流れが、青い空を揺らしながら映していた。
こちらは玉淀ダムの探訪記です。よろしければあわせてご覧ください。