到達:2025年1月
難易度:■■□□(初級)
「“瀬戸内海”の境界を(ほぼ)規定する5灯台」を、蒲生田岬灯台(かもだみさきとうだい、徳島県阿南市)でコンプリートした。
ほかの4つの灯台は、紀伊日ノ御埼灯台(和歌山県日高町)、佐田岬灯台(愛媛県伊方町)、関埼灯台(大分県大分市)、六連島灯台(山口県下関市)だ。この5つの灯台と陸地によって、“瀬戸内海”が(ほぼ)囲まれる(次の図の緑色領域)。もちろん、自分で作った独自概念にすぎず、行く灯台を選ぶうえでの理屈を考えてみた、というだけのことだが。
蒲生田岬灯台のクエストに入る前に、少しこちらを説明しよう。
上図にあるように、紀伊日ノ御埼灯台と蒲生田岬灯台の間には伊島があり、ここに伊島灯台がある。これについては記事末で触れる。
ところで“瀬戸内海”とはどこを指すか。いくつかの規定があるが、「領海及び接続水域に関する法律施行令」(https://www1.kaiho.mlit.go.jp/ryokai/houritu/sea_exe.html)には「瀬戸内海と他の海域との境界」が次のように定義されている(緯度経度は省略)。
一 紀伊日ノ御埼灯台から蒲生田岬灯台まで引いた線
二 佐田岬灯台から関埼灯台まで引いた線
三 竹ノ子島台場鼻から若松洞海湾口防波堤灯台まで引いた線
ここで紀伊日ノ御埼灯台に指定されている緯度経度は、2017年に新築移転した現在の“3代目”ではなく、1951年初点灯の“2代目”(現在は跡があるだけ)のものだ。「法律施行令」の最後の改正が2001年であることからもわかる。ただ、線の位置にはほとんど影響がない。
紀伊日ノ御埼灯台(2代目跡も3代目も)、佐田岬灯台、関埼灯台にはすでに到達しているので、今回の蒲生田岬灯台で(一)と(二)はクリアした。
問題は(三)だ。
「竹ノ子島台場鼻」(山口県下関市)で指示されている緯度経度をポイントすると、ちょっと海の中に入ってしまうが、言いたいことはわかる。近くにあった台場鼻灯台は2009年に廃止されてしまったが、台場鼻潮流信号所はまだ稼働中で、このあたりまでは行こうと思えば行けるだろう。
対岸の若松洞海湾口防波堤灯台は、灯台の周りで釣りをしている人の写真がネット上で見つかる。しかし、その写真を見たらとてもではないが自分では行ける気がしない。細長い堤防を約550m歩かないとたどり着けないのだ。
ちょっと危なそうな場所も踏破する灯台びとの冒険心に感心することも多いが、釣りびとにはそれをはるかに上回る冒険者がいっぱいいる、という例だ。
この2カ所については、いずれ行くかもしれないが、ひとまずはそのすぐ先にある六連島灯台(むつれじまとうだい)で代替してしまうことにした。これが「境界を(ほぼ)規定」という、歯切れの悪い言い方の理由だ。
蒲生田岬灯台以外の4つの灯台のクエスト記事は、記事末にリンクを入れた。
そろそろ本論に入ろう。
蒲生田岬(かもだみさき)は、離島を除くと四国の最東端に位置する。もともと「がもうだ」だったが、次第になまって「かもだ」になったようで、いまは一般的に「かもだ」が使われている。
上図を見るとわかるように、蒲生田岬はかなりとがった細長い半島になっている。国道55号を曲がったあと、すれ違いが難しいような箇所もある細い道をクルマで30分ぐらい走るとそこそこ広い駐車場に着く。ここにはトイレもある。
句碑や花崗岩(同じ四国で産する庵治石だそうだ)のモニュメントがあるところから遊歩道に入る。
大きな岩を回り込めば、あっさりと蒲生田岬灯台が見えた。
近づくとすごい階段(150段、高低差約40m)にちょっとビビる。
右には広場があるが、ここは退息所(官舎)があったんだろう。広場の正面にある道からも灯台に行けるという。こっちの方が階段より傾斜が緩やかなんだろうが、同じ高さをのぼらなければならないのは変わらないから、覚悟を決めて階段で行く。
手すりにつかまり、途中で3回息を整え、よろよろとのぼっていくと、灯台が見えてきた。
駐車場から10分ほどで、蒲生田岬灯台に到着。入口が灯塔の中央にあって、そこまでらせんの外階段がある、という少し珍しい形。
反対側に回る。
目立つ大きな四角い窓は、「シリカ碆(はえ、ばえ)」を照らす照射灯で、灯台自体の光源はLEDなのでこっちは存在感が薄い。
ちょうどこの日、2024年下半期の直木賞受賞作が伊与原新「藍を継ぐ海」だと発表された。本書収録の5編のうちの1編が、蒲生田岬を舞台にしたもので、表紙の装画が蒲生田岬灯台なのだ。なんという偶然。
この装画を見た人は、シリカ碆照射灯からの光が、灯台の光だと思っちゃうだろうな。あと、灯台の下は、少し離れたところにあるウミガメが産卵しに来る浜(カダチ浜?)っぽいとか、実際とはちょっと違うところがあるけど、絵としてはなかなか印象深い。
外階段の手すりは老朽化しているらしく「立入禁止」「触らないで下さい」などの掲示がある。
このときは強風が吹き荒れていて、なにかにつかまっていないと吹き飛ばされそうだったので、てすりは触らず、灯塔を伝いながらのぼった。北からの風をまともに受ける入口付近にいたのは銘板を撮影する1秒だけ。
東方向を見るが、海面はかなり白波が立ち、うねっている。天気があまりよくないから、紀伊半島はほとんど見えない。画像左に見えるのが、蒲生田岬と紀伊半島日ノ御埼の間にある伊島(いしま、徳島県阿南市)だ。
翌朝、日の出時刻にウミガメの浜に行ってみた。この浜から蒲生田岬灯台がよく見えることに気づいた(太陽の右にある高い場所)。
日がのぼると、風が次第に収まり、雲も少なくなったようだ。灯台にもう一度行ってみることにした。
りりしい感じ。やっぱり照射灯の窓の方がLEDより目立つ。
きのうより空が青いな。
さらに紀伊半島もうっすらと見える。
さすがに紀伊日ノ御埼灯台(らしきもの)は見えないが、気象条件が良ければ見えるだろうか。地図で調べると、どうやら伊島の陰になるのでダメっぽい。
ただ、伊島にも伊島灯台(いしまとうだい、徳島県阿南市)がある。伊島灯台はかすかに確認できる(島の右端から3分の1ぐらいのところ)。ちょうどこの先に紀伊日ノ御埼灯台があるようだ。
では伊島灯台から紀伊日ノ御埼灯台は見えるだろうか。どうも先人のブログ記事を見ると、灯台の周りは木に覆われていて、紀伊日ノ御埼も蒲生田岬も見えないらしい。
とはいえ、「瀬戸内海の境界」上にあるわけだから、なにも見えなくてもひとまず行ってみようと、蒲生田岬の前に伊島灯台に寄ることにしたのだ。
伊島航路の船は答島港(こたじまこう、徳島県阿南市)から出ている。
ところが、そこで船員さんから聞かされたのは「帰りの便は欠航しそうだ」という衝撃的事実。
現在(12時ごろ)は穏やかな天気なのだが、昼すぎから風が強まり、波も荒くなる予報が出ているので、伊島から答島に戻る午後の便は欠航する可能性が高いという。1日3往復の伊島航路は、その便で終わりだから、欠航になったら伊島に泊まるしかなくなる。
やめておいた方がいい、ということなので、仕方なく断念。その後、蒲生田岬灯台に行ったときの強風を思えば、予測通り欠航しただろう。アドバイスしてもらって助かった。海は天気の変化に注意が必要だ。
伊島灯台からは紀伊日ノ御埼も蒲生田岬も見えないようだから、諦めもつく。
では、紀伊日ノ御埼から伊島や蒲生田岬は見えるだろうか。以前紀伊日ノ御埼灯台(和歌山県日高町)に行ったときは「瀬戸内海の境界」なんていうことを意識していなかったこともあり、対岸が見えるかどうかにあまり注意を払っていかなったのが悔やまれる。
ただ、「この先は紀伊水道。対岸の徳島が見えることはあるんだろうか」と書いているし、2~3枚の写真を見る限りでは、対岸になにも見えていなかったようだ。
紀伊日ノ御埼灯台と蒲生田岬灯台の間は約30km、これは厳しいかもしれない。
一方関埼灯台(大分県大分市)から約13km離れた佐田岬灯台(愛媛県伊方町)は灯台っぽい形もわずかに見えた(反対方向の佐田岬灯台からは天気がよくないので関埼灯台までは見えなかった)。
今回わかったこと。豊後水道(豊予海峡)を挟む佐田岬灯台と関埼灯台とは、気象条件がよければ互いが見える。一方紀伊水道を挟む紀伊日ノ御埼灯台と蒲生田岬灯台とは、気象条件がよくてもおそらく確認できないだろう。
以下は、「“瀬戸内海”の境界を(ほぼ)規定する5灯台」、残りの4つに行ったときの話だ。