2022年4月の朝、長野県のJR松本駅に私はいた。南小谷(みなみおたり)行きの列車に乗るため、6番線ホームへ続く階段を下りていった。
6番線はJR大糸線が発着するホームで、まだ列車はきていない。
7番線には、すでに列車が停まっていた。なんだか歴史を背中にしょったような雰囲気がある車両に、足をとめてしまう。
7番線は、アルピコ交通(旧社名:松本電気鉄道)の上高地線が発着するホームだ。停車している車両に近づいてみると、お知らせ文書が外から見えるように掲示されていた。
どうやら、訪問時には上高地線は不通で、バスによる代替輸送をしているようだ。いったい何があったのか。調べてみると、次のようなことがわかった。
2021年8月11日からの大雨で、西日本を中心に土砂災害や河川氾濫による被害は全国20県に及んだ。長野県松本市を走行する上高地線においても、8月14日の大雨による河川増水で2つの橋梁が被災した。
被災した橋の1つ、田川橋梁は西松本と渚の両駅間に架かる鉄橋で、2本ある橋脚のうちの1本が洗掘(激流で河岸や河床が削り取られること)で傾き、列車の走行が不能になってしまった。
被災状況が大きかったため、松本から新村までの区間はバス輸送となり、2022年6月に全線開通するまで10か月の期間を要した。
行き場を失った車両は松本駅に留置され、休車扱いとなっていた。私が訪問したのはちょうどその時期だったのだ。
全線開通した2022年6月10日には、アルピコ交通の公式ページに「上高地線 全線運行再開のお知らせ」のアナウンスがあり、その中で運行再開時の動画なども公開されている。
個人的に最も印象的だったのは、6月8日のアルピコ交通公式のツイートだ。長い間、松本駅で留め置かれ3003号車と3004号車が、夜間に牽引され田川橋梁を渡っていく写真がなんだか胸をうつ。
復旧した田川橋梁を渡る最初の車両となった3003号車と3004号車は、静かに新村車両所に帰っていくのだった。
当初、このまま廃車とも言われていたが、諸事情によりイベントや通常運行などに再復帰。もう一度、表舞台で活躍出来てよかったなぁと思いつつ、2023年4月より再び休車となった両車両、本当にお疲れ様でした。
ちなみに、田川橋梁の復旧・補強が完全に終了したのは、今年2023年の3月だ。傾いだ橋脚を新しいものに取り換え、残ったもう1本の橋脚の足元は6mの深さで固め補強している。地元の市民タイムスwebに写真が掲載されているので、次の被災前のストリートビューと見比べていただきたい。