◎本稿は、ビジネス系デジタルメディアJBpress(ジェイビープレス)に、2022年11月26日に掲載された記事を転載したものです。2026年時点の情報に更新した記事を近日公開予定。
冒頭の写真は、JR飯山線信濃平駅(しなのたいら、長野県飯山市)の駅舎なのだが、なにか別のものに見えないだろうか?
そう、貨車(貨物を運ぶ鉄道車両)だ。昭和の時代には、いくつもの貨車が連結された長い貨物列車がよく走っていたが、最近はほとんど見かけなくなった。姿を消した貨車のいくつかは、こうして駅舎として利用されているのだ。
このように貨車を改造した駅舎を「ダルマ駅」と呼ぶことがある。貨車から車輪や連結器などを取り外し車体だけになった様子が、手足のない置物のだるまに似ているからだ。
この、情緒あふれるダルマ駅だが、残念なことに姿を消していっている。消えゆくダルマ駅の現状と今後を前後編でお伝えする。
元はどういう種類の貨車だったのか?
ダルマ駅を味わうポイントのひとつはベースとなる貨車の種類だ。駅舎には屋根が必要なので、利用するのは有蓋(ゆうがい)車(記号:ワ)、冷蔵車(記号:レ)、車掌車(記号:ヨ)、などに限られる。
有蓋車や冷蔵車は、車体の中央付近に荷物搬入用扉(引き戸)があるので、扉を外したあとは開口部になっている。
一方車掌車の場合は、車体の端にデッキがあり、人(車掌)はそこから出入りする。車体中央の扉はない代わりに、窓があるのが特徴だ。
以下ではいくつかのダルマ駅の写真を紹介するが、ベースとした貨車の種類がなんだったのか、という点にも注目してほしい。
外観と内部で貨車の面影を味わう
信濃平駅は、半分が車掌室、半分が貨物室という混合タイプの貨車だ(記号:ワフ)。


中に入ってみよう。駅舎内には、無人駅でよく見かけるオレンジ色の乗車駅証明書発行機があり、時刻表などが掲示されている。
ゆるいカーブを描いた木張りの天井は、有蓋貨車の特徴のひとつ。木のベンチや床板などは駅舎への改造時に追加・交換したものだが、天井、配管、扉枠のリベットなどと全体の調和がとれていて、いい感じの“古さ”を感じさせる。
証明書発行機のあたりに、車掌室と貨物室を区切る壁があった。開口部(現在の出入口)より向こう側が貨物室だ。

反対方向の車掌室側を撮影。窓があるのが、貨車(貨物室)にはない特徴だ。奥にはデッキスペースにつながるドアがある。

車掌室側のデッキ。奥には公衆電話が設置されていた。

車体の下部を見たら、車両番号「ワフ29737」の文字が残っていた! 車両番号が確認できるダルマ駅は珍しい。

車掌車ベースと有蓋車ベースの駅
そのほかのタイプの貨車をベースとしたダルマ駅も見ていただこう。
しなの鉄道の平原駅(長野県小諸市)は両側にデッキのある車掌車(ヨ5000形)がベースだ。室内にはデッキから入る。車掌車は窓が多く室内が明るいという利点がある。

JR只見線の会津坂本駅(福島県会津坂下町)は有蓋車(ワラ1形)をベースにしているので、車体中央に開口部がある。現役時代、有蓋車は基本的に黒く塗られていたが、駅舎への改装時に明るい色に塗り替えられた。ただ、現在ではその塗装がだいぶはげてしまって痛々しい。
【2026年8月追記】訪問翌年(2023年)のストリートビューを見ると、駅舎外壁が再塗装されきれいになっていた。

車体には製造会社を示す「日立製作所」と、懐かしい「日本国有鉄道」の銘板が残っていた。

ダルマ駅が続々と誕生した理由
地域に偏りはあるものの、以前は日本各地にダルマ駅があった。設置された時期も昭和の後期でほぼ同じである。それには理由がある。
日本国有鉄道(国鉄)が分割民営化されたのは1987年(昭和62年)4月のこと。トラックに輸送の主役の地位を譲りつつあった貨物列車も、経営合理化により大きな変革を余儀なくされた。合理化の1つが、貨物列車のワンマン運転化である。
それまで多くの貨物列車には最後尾に車掌車(および類似の貨車)が連結され、車掌が乗務していた。ところが、機関士一人での運行が可能な条件が整ったとして、1985年3月のダイヤ改正で原則として車掌車が廃止となったのだ。
また、荷物の扱いが容易な「コンテナ」の普及で、有蓋車などの貨車も次第に必要なくなっていった。
ただ、車掌車や有蓋車は屋根があって雨風を防げるのに加え、車体が頑丈なので、倉庫としての利用価値が高い。こうして、余った貨車は、民間に払い下げられたもののほか、駅舎として生まれ変わることになったのだ。
それから30~40年が経ち、ダルマ駅は次第に数を減らしてきた。そして数少なくなったダルマ駅も消えていこうとしている。
後編では、いまいくつのダルマ駅がどこにあり、最近廃止されたダルマ駅がどこにあったかを詳しく見ていく。もちろん、このところ話題になっている「赤字の地方鉄道をどうしていくか」という議論と無関係ではない。


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